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不戦条約はなぜ戦争を止められなかったのか(2ページ目)

1928年、第1次世界大戦のような悲惨な戦争を繰り返さないように、国際社会は戦争の放棄をうたう不戦条約を結びました。しかし、結果は……不戦条約が機能しなかった理由と、現代にもつながる課題などを考えます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【不戦条約とはどんな条約だったのか】
2ページ目 【国際的「ユートピア主義」の崩壊】
3ページ目 【21世紀の平和維持にも必要な「リアルな視点」】

1920年代を覆った「ユートピア主義」

ウィルソン大統領
中央が国際連盟の創設を主張したウィルソン大統領。彼を中心として、ユートピア的理想主義が1920年代の外交を支配した。
1920年代に行われた一連の動き、つまり国際連盟の創設や軍縮条約、不戦条約の締結は、「国際法によって平和を確立する」という思想に立っていました。

つまり、国際社会における「法の支配」の実現です。法が国家を拘束し、平和が実現するという考えです。

しかし、この考え方はある意味「ユートピア的」な発想です。非常に楽観的です。制度や組織、そして法が整えば、国家は戦争をしないだろうという考えです。

イギリスやフランス、そしてアメリカは、これがうまくいくと、あまり根拠もなく、考えていました。それほど、第1次世界大戦は悲惨だったということがいえます。邦整備をきちんとすれば、あんな悲惨な戦争を起こそうとする国はいないだろうと、彼らは考えていたのです。

1920年代の「リアリティ欠如」を指摘したカー

『危機の20年代』を著し、現実主義的国際政治学者の第一人者となったエドワード・カーは、このような1920年代をこう考えました。

1920年代、各国は「戦争の防止」というユートピア的思想を目標にして外交を展開した。しかし、その過程で、目標をいかにして達成するかという「リアルな視点」が欠けていた……カーは、そう考えます。

つまり、「どうあるべきか」だけを考え、「どうなっているか、どうすべきか、なにがあるのか」を考えようとしなかったところに、1920年代外交の欠点はあったとカーは考えているのです。

かたよっていた「ユートピア主義」

カーはさらに、国家の「道義」について述べ、「世界の共同体を守る」ということが道義として重要であることを述べる一方で、このような指摘をしています。

つまり、1920年代の世界共同体の中身そのものが、非常に不平等であるということ。……たとえば第1次世界大戦の敗戦国ドイツは巨額の賠償金を課せられ経済の混乱を招いていた一方、戦勝国イギリスやアメリカ、フランスは順調な社会を運営していたという「事実」。

あるいは、植民地を多く抱え経済的繁栄を謳歌していたイギリスやフランスに対する、植民地を多く持たない日本やドイツ、イタリアといった国々との格差。

世界共同体は、ある意味第1次世界大戦の主要戦勝国にかたよった秩序に基づいていたといえます。この主要戦勝国によって、世界共同体は生まれ、運営されていた。このようななかで、不戦条約も作られていった。

このような不平等な構造のなかで、それに不満を持つ「反乱者」が生まれることを、1920年代の理想主義外交は想定していなかったのでした。そういった意味でも、「リアルな視点」が欠けていたのが1920年代外交だったといえます。

そして「反乱者」になった日本、ドイツ

ファシズム
ドイツ占領下のウクライナで行われたナチス党員の行進(写真/ウクライナ政府サイト)。
実際、敗戦国だったドイツだけでなく、日本やイタリアなども、このように作られた「世界共同体」への「反乱者」となっていくようになります。

日本では、早くから「世界共同体」的なものへの反発が生まれていました。例えばのちに首相となり日中戦争開戦時の首相となった近衛文麿は、『英米本位の平和主義を排す』という論文を発表、西欧中心に作られている国際秩序の打破を訴えました。

このような思想はやがて軍部に広がっていき、軍縮条約で「英米本位に」軍縮を「押し付けられた(と感じた)」ことも重なり、現状打破のため満州、中国への進出、侵略となっていったのでした。

そしてイタリアはエチオピアを侵略。これに対し、国際連盟はいかにも無力でした。ドイツは世界恐慌の混乱のなか、ナチス政権が誕生。ヒトラーは戦後体制の打破を宣言して軍備を拡大していきます。

こうして不戦条約を頂点とした平和への努力、理想主義は一気にちょう落していきます。やがて第2次世界大戦が起こり、1920年代の平和構想は泡と消えてしまうことになるのです。

このようなことから、21世紀のわれわれは何を学べばいいのでしょうか。次ページで考えていきます。
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