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世界の憲法改正手続比較(2ページ目)

憲法改正論議がわが国でもさかんになってきましたが、日本以外の国の憲法改正手続はどうなっているのでしょう?なかなか情報のない他国の憲法改正手続について、先進国を中心に情報を集めてみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【日本、そしてイギリスの憲法改正手続とは?】
2ページ目 【アメリカなど連邦制をとる国の憲法改正手続】
3ページ目 【先進国でも国民投票をしないで改正する国がある】

【アメリカなど連邦制をとる国の憲法改正手続】

「州」の意思を重視する連邦制国家の憲法改正

連邦制国家の改正手続
連邦制国家では、連邦を構成する準国家的存在(州など)の意思を重んじることが多い。
連邦制国家では、連邦を構成する「準国家=州」の意思を尊重する国が多くあります。その代表がアメリカといえるでしょう。

アメリカは、連邦議会の両院で3分の2以上の賛成によって、憲法改正を発議します。ただし、州議会の4分の3が要求した場合は、特別に「憲法会議」を召集しなければなりません。

発議された改正(アメリカ憲法では「修正」)案は、州議会の4分の3が承認するか、または憲法会議で4分の3の州の賛成があれば、効力を持ちます。国民投票はありません。州にはそれぞれ憲法があり、人々はこちらの改正について直接参加することができます。

カナダでは、(1)連邦議会の上院・下院の議決(2)3分の2以上の州議会の議決、ただし議決した州人口が全体の過半数あること、によって憲法改正ができるとされています。もっとも、重要事項(国王や総督の権限変更、下院選挙に対する州の権利など)については連邦議会両院の議決と全州議会の議決が必要となっています。

カナダでは上院が州の代表とされていること(実際には首相が選任、総督が任命)を考えると、やはりカナダも国民より州の意思を尊重していると考えていいでしょう。カナダの州も国家なみの権限を持っています。

同じく連邦制をとっているロシアも州などの意思を尊重します。連邦議会上院の4分の3、下院の3分の2が承認し、さらに共和国・州・地方などの連邦構成体議会の3分の2の承認が必要となっています。

ドイツ憲法(基本法)は国会両院(連邦議会・連邦参議院)の3分の2以上の多数で改正できます。もっとも、上院にあたる連邦参議院は州が代表を直接送り込む議会ですから(定数は州の人口によって決まるのでまちまちですが)、やはり州の意思を重視しているといっていいでしょう。

連邦制でも国民投票を行う国

もっとも、連邦制でも国民投票が憲法改正手続に盛り込まれている国がないわけではありません。

オーストラリアでは、連邦議会両院の過半数で可決した後、各州(凖州ふくむ)の州民投票を行い、過半数の州で賛成し、かつ全選挙人の過半数の賛成が得られたとき、改正ができることになっています。

同じく連邦制をとっているオーストリアでは、全部改正は必ず、また一部改正は連邦議会のどちらかの3分の1の要求がある場合、連邦議会の過半数の賛成の後、国民投票に付さなければならなくなっています。

もっとも、今までにないものや、法律中の重要規定を「憲法規定」とすることは、連邦議会両院の3分の2以上の多数のみで行えることになっています。

国民が改正を提案できるスイス

スイスの憲法改正国民発案
直接民主政を重視するスイスでは、憲法改正について国民が直接発案できるしくみが規定されている。
やはり連邦制をとっているスイスでは、憲法改正は原則として連邦議会の議決のみで行うことができるようになっています。

ただし、両院のいずれかが改正に同意しなかった場合、または10万人以上の有権者が全面改正を要求した場合は、国民投票を行い、過半数が改正に賛成した場合、新たに両院を選挙しその上で改正審議を行うことになっています。

また、スイスでは部分改正については国民が直接提案(イニシアティブ)することができるようになっています。

つまり、憲法の一部改正案は10万人以上の有権者によって提案されることができます。これに連邦議会両院が同意する場合、議会は国民と邦(州にあたる)に対して改正案を提案しなければなりません。

また、改正案に対し議会両院が同意しなかった場合は、そのまま国民投票によって改正をするかどうか問い、過半数の改正賛成があった場合には、議会は改正に着手しなければなりません。

いずれにせよ議会が改正案を提案し、有権者・邦それぞれの過半数の賛成によって改正は承認されます。このとき、議会は対抗案を作り、国民案とともに承認を求めることができます。

部分改正については、国民による提案以外の改正手続はスイス憲法に規定がありません。直接民主主義を重んじるスイスならではの独特な改正手続といえるでしょう。

最後のページでは、日本と同様国民投票が必要な憲法、さらには議会の議決だけで改正できる憲法を紹介しましょう。
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