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変わりつつあるODA基礎知識(前編)(2ページ目)

いろいろな議論のある日本のODA(政府開発援助)。はたしてODAとはそもそも何のためにあるのか。現在のODAをめぐる国際的な情勢は。ODAについての最新基礎知識をまとめてみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【なぜODAという「公的資金援助」が必要なのか】
2ページ目 【開発中心の援助から「人間の安全保障」へ】
3ページ目 【世界のODA体制と、現在のODAをめぐる情勢】

【開発中心の援助から「人間の安全保障」へ】

ODAによって行われる「国際所得再分配」

国際分業と格差
現在の国際分業システムは先進国と開発途上国の格差を固定化する傾向にある。固定化を解くとともに、先進国から途上国への「所得再分配」も必要なことだ
多くの開発途上国は、20世紀後半まで続いた植民地支配により富が収奪されたばかりか、その後も、安価な農産物や鉱産物といった「一次産品」の輸出に頼る「モノカルチャー経済」から脱することができずにいます。

一方、日本を含め先進諸国は、こうした国々から安く原材料や農産物を購入し、それを消費したり、あるいは加工して開発途上国に輸出するなどして利益を得ています。

こうした「国際分業」の固定化は、開発途上国を「食糧や原材料を安く売る国」として固定化することでもあり、これらの国の工業化を遅らせる大きな原因になっているといわれています。

インフラ開発援助型ODAは、こうした状況にある開発途上国に対し、自国が得た利益の一部を還元し、国際的な「所得再分配」を行う役割を持っているのです。こうした意味で、国際分業で有利な立場にいる先進国がODAを行うことは「先進国の責務」ともいわれているのです。

援助国も得するODA

そしてこれらインフラ開発援助型ODAによって、援助国も利益を受けることを忘れてはなりません。

援助を受けた開発途上国で港湾や空港、道路などが整備されれば、援助国はその国に対して貿易をしやすくなります。工業団地などがODAによって建設されれば、そこに工場を作って安い人件費で生産しようという先進国の企業も増えるでしょう。

こうして、開発援助によって、援助を受けた国だけでなく、援助国にとっても、通商関係や新しい市場の開拓など、各種の恩恵を受けることになります。援助国と援助を受ける国との間で、ビジネス用語でいう「Win-Winの関係(両者ともに得する関係)」が生まれることになるのです。

日本は今日まで中国をふくむアジア諸国のODAを行ってきましたが、これにより日本の近隣の開発が進み、それが日本の貿易をさらに活発化させ、今日の貿易大国の座を不動なものにしている面は見逃せません。

グローバル化されていく世界経済のなか、一国だけで経済が繁栄することは不可能です。これからはまだ開発の遅れている南アジアやアフリカへの支援も、これら地域と日本との「Win-Win関係」構築のため、急がれるところでしょう。

インフラ開発援助型ODAの問題点

もっとも、現在ではインフラ開発援助型ODAが万能であるとは考えられていません。1970年代後半から、さまざまな指摘が行われてきました。

まず、インフラの整備が、そのまま開発途上国の発展につながっていかない地域もあったという点です。東アジア・東南アジアではインフラ整備によって経済は比較的良好に発展しましたが、南アジアやアフリカなどではそうはいきませんでした。

1970年代までは、それまでは、全体のインフラを増やし、経済規模を大きくすれば、自然と人々の暮らしはよくなるだろうという楽観的な考えが幅を利かせていました。しかし、必ずしもそのようなシナリオ通りにはいかなかった地域も多かったのです。

また、援助される国が持っていたいびつな社会構造(一部の特権階級の存在、部族対立など)によって、援助の恩恵が必ずしも国民全体に行き渡らず、本当の意味での援助になっていないという点も指摘されてきました。

さらに、開発を重視するあまり、森林伐採を行い環境を破壊したり、ダム建設によって人々が住み場所を奪われているという批判も起こるようになります。

こうしたことから、わが国を始め先進国は、単なるインフラ開発だけでなく、人間ひとり一人の生活を守り向上させることをより重視するようになっていくのです。

「人間の安全保障」的援助

人間の安全保障
国境を越えて人々の危険を取り除く「人間の安全保障」は、世界にいる人類65億人の利益のための共通の課題ともいえるだろう
このようにして、人間個人の援助に目を向ける考え方は、1980年代頃から重視されはじめ(初めからまったくなかったわけではないのですが)、1994年、国連開発計画(UNDP)による『人間開発白書』により、「人間の安全保障」という言葉とともに、わが国をはじめ多くの国のODAの方針の1つとして採用されるようになっていきます。

つまり、貧困や環境破壊、さまざまな不衛生や感染症、さらには紛争やテロなど、人々の基本的安全を脅かすものを援助により除去し、「人間の安全保障」を実現していこう、ということです。

こういう考え方から、個人の安全を重視するODAの一側面を、ここでは「人間の安全保障型援助」ということにします。もちろん、この援助には、インフラ開発型援助と同様、ひとりひとりの問題を解決することで、開発を促進し、経済を活性化していこうという考え方も含まれています。

また、だからといってインフラ開発援助を止めてしまっているわけでもありません。むしろインフラ援助と「人間の安全保障」援助がODAの車輪の両軸となって、バランスのとれた援助を行うことが必要と考えられています。

海外の貧困は、決して日本人と無関係ではない

そしてこのような「人間の安全保障」的援助は、援助国のため、というよりわれわれ人類全体のために必要なことなのです。われわれはそれを認識しなくてはなりません。

たとえば貧困をなくすことは、先進国を脅かすテロリズムを根絶するひとつの有効な手段と考えられています。貧困からテロが生まれているという事情があるからです。

また、アフリカなどでみられ、人々を苦しめている砂漠化を阻止するなど、環境破壊を阻止または修復していくことは、今や人類緊急の課題とも言える地球温暖化対策ともなるのです。

「人間の安全保障」とは、貧しい人だけの安全を保障するのではなく、それを通じて世界65億人の安全を築いていくものだと考えるといいでしょう。

次ページではこうしたODAの国際的な制度や計画などについてお話していきます。
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