(2006.09.19)
「自民党派閥の基礎知識」を書いてから5年。その間、派閥をめぐる情勢は大きく変わりました。新しい派閥もできました。というわけで「自民党派閥の基礎知識2006」で、最新の情勢を頭に入れておきましょう。
1ページ目 【「自民党派閥制度」の基礎知識】
2ページ目 【二大派閥、森派(清和会)と津島派(経世会)】
3ページ目 【丹羽・古賀派、谷垣派、河野派、伊吹派、山崎派、高村派、二階派】
【「自民党派閥制度」の基礎知識】
派閥の存在意義とは?
自民党の派閥が持つ独特な二つの機能、それが資金とポストの配分機能だ。 |
集団ができると派閥というものはできるものです。民主党にも○○グループというものがあり、これも派閥といえば派閥です。
しかし、自民党の派閥はこうした「グループ」にはない、独特の機能を持っています。それは、
・政治資金を所属議員たちに配分する
・政治ポストを所属議員たちに配分する
というものです。
派閥による政治資金の配分
自民党の派閥は、党や政治家に代わって政治資金を調達し、それを政治家たちに分配するという独特な機能を持っています。特に1993年まで日本の衆議院で採用されていた中選挙区制のもとでは、政治家たちは自民党そのものにあまり政治資金を分配してもらうことが期待できませんでした。そのため、派閥が代わって政治資金を調達=分配するしくみが定着したのです。
どういうことでしょう。現在の小選挙区制(1選挙区で1人しか当選しない)と違い、かつての中選挙区制では2~5名程度が当選できるしくみになっていました。そのため、自民党候補が2人以上立候補し、2議席独占、または3議席中2議席獲得目指す、ということが普通にありました。
しかしそうなると、自民党候補者にとって、もう1人の自民党候補者もまた選挙においてはライバルになってしまう。しかし同じ党なので、苦しいからといっても自民党に特別援助してもらえるわけではない。
そこで、政治家たちは派閥を頼りにしたのです。
1970年代から80年代にかけて田中派が持った大きな力は、領袖・田中角栄の資金調達力の大きさと比例していると言えるでしょう。実業家としても成功していた田中は、豊富な政治資金を使って、派閥の候補者をどんどん当選させ、派閥の勢力を増やしていったのです。
派閥が持つ資金能力の陰り
しかし、こうした派閥の資金力は現在明らかに低下しています。そのきっかけをつくったのが1994年に制定された政党助成法でした。議席と得票数に応じて政党に巨額の政党交付金が国から支給されるというこの制度によって、政治資金配分の中心は派閥から自民党本部に移りつつあります。
実際、2005年の郵政選挙の際には、派閥とは関係なく公募で選ばれた候補たちが、派閥の資金ではなく党の資金で、続々と当選していきました。
1994年から小選挙区制になっていることも影響しています。以前であれば自民党から公認されなかった政治家が派閥の力で当選することはよくありました。しかし1名しか当選しない現在、そういう候補は、党からの圧倒的な資金力で支えられている公認候補に勝つことがそうとう困難になっているのです。
派閥のポスト配分機能
派閥は選挙だけではなく、総裁選などを通じて党内の権力争いに参加します。これに勝利した派閥は大臣などの閣僚ポストを多く手に入れ、派閥のメンバーに配分してきました。ただ、70年代を通じてあまりに派閥抗争がさかんになったため、80年代からは、派閥の勢力(所属国会議員数)に応じてポストが配分し、抗争をおさえる傾向が強くなりました。
いずれにせよ、派閥はこうしてポストを手に入れ、それを議員に配分する機能を持っています。そのため、議員は派閥に入り、ポストが手に入るのを待つようになるのです。
90年代になると、派閥が割当閣僚数に応じて推薦名簿を首相に提出し、閣僚などの主要ポストが割り振られる方式が定着していきます。割当数より少しでも多くのポストを手に入れたい派閥は、総裁派閥に接近し、総裁選で協力するなどしていました。
ポスト配分機能の低下
政党助成制度や小選挙区制の導入をきっかけに党の力が増しつつあり、相対的に派閥の力は弱まっている |
しかしもっと大きな背景は、さきほど述べた「派閥の資金配分機能の低下」にみることができるでしょう。
カネの配分ができない派閥はもはや魅力的な組織ではなくなり、派閥離れが進行しています。無派閥でも党内に影響力を持つ大物政治家も増えてきました。そのため、派閥のみに目を向けた人事を行うことそれ自体が、今は難しくなってきているのです。
しかし副大臣や大臣政務官、その他の党の下位ポストは依然として派閥重視となっています。このあたりまで首相や党本部が直接決めることは困難なようで、派閥のポスト配分機能が完全になくなったとはいえないようです。
★さて、次のページから各派閥の歴史と特徴、現在についてみていきましょう。