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レバノン政治基礎知識2006(3ページ目)

イスラエルの侵攻で揺れるレバノン政治の基礎知識最新版です。レバノン建国の経緯から、複雑な宗派構成、レバノンを取り巻く国際情勢、ヒズボラの基礎知識まで解説しています。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【複雑な宗派モザイク国家レバノンとは】
2ページ目 【レバノン内戦とシリア・イスラエルの介入】
3ページ目 【武装組織ヒズボラをめぐる国際的な構図とは?】

【武装組織ヒズボラをめぐる国際的な構図とは?】

2006年のイスラエルレバノン侵攻

レバノンをめぐる図式
レバノン侵攻:イスラエルをアメリカが、ヒズボラをシリアとイランが支援、一地域の紛争にとどまるものではないのが難しいところ
2006年7月、ヒズボラがイスラエル兵2人を拉致したとして、イスラエルはレバノンへの侵攻をはじめました。

しかし、イランやシリアの支援を受けるとされるヒズボラはなかなか頑強で、イスラエルも手を焼いています。イスラエルは、南レバノンだけでなく、シーア派地域が広がる南ベイルートなどにも空爆を行い、侵攻作戦は大規模なものになっています。

この侵攻に対し、レバノン政府はまったく無力。近代的兵器に乏しく、内戦時の民兵の寄せ集まりであるレバノン軍に、事態を打開する力はありません。

こうしたなか、一般人が巻き込まれ死傷者が急増。イスラエルを批判する国際世論は日増しに増え、特にレバノン南部の町カナでイスラエル軍の「誤爆」により多くの子どもたちが死ぬと、それまで停戦に反対していたアメリカもその方針の変更を迫られています。

アメリカはヒズボラをテロ組織と考え、イスラエルによる軍事作戦を認めてきました。アメリカ自身もかつてヒズボラの攻撃にさらされたこともありましたし、アメリカと敵対するイランやシリアがヒズボラを支援していることも、アメリカがイスラエルの行動を容認する原因でした。

しかし、国際世論はイスラエルの軍事活動停止を求める声が大きい状況。今後は、アメリカがイスラエルの主張をいれつつ、どうやってこの状況を収めるかがポイントになってくるでしょう。

イスラエルがヒズボラ制圧にこだわる理由

イスラエルは、「レバノンのヒズボラ化」を警戒しています。それはかつて、レバノンがPLO化しそうになったこととおなじような理由です。イスラエルを攻撃する組織が隣国レバノンで大きな勢力を持つことは、イスラエルにとって脅威だからです。

今、イスラエルでは2000年の南レバノン撤退は「失敗だった」という主張がなされています。これがヒズボラの拡張をもたらし、レバノン政府も制御不能な大きな組織になってしまった。

そのため、この機会にヒズボラを徹底的に叩く。これはイスラエルにとって大事な「自衛行為」。そんな意見が、イスラエルでは大勢をしめているようです。

イスラエルの過剰な(イスラエルはそうは思っていない)侵攻作戦を止めさせるには、ヒズボラの武装解除は無理としても、イスラエルへの攻撃停止を確約させる(それがイスラエルも確信する)ような取り決めが必要でしょう。……しかし、それはなかなか難しいことのようです。

ヒズボラが大きな勢力をもっているのは?

さて、ヒズボラについて、改めて説明していきましょう。

「神の党」という名前のこの組織は、1982年のイスラエル侵攻のとき、イラン革命直後のイランの支援を受けてできたシーア派武装組織です。拠点はシーア派の多い南部レバノンですが(そのため攻撃もここに集中)、ベイルートにも拠点を持っています。

ヒズボラは原理的なイスラム主義を掲げていたため、「世俗国家」であったシリア当初、イスラム主義の自国への浸透を恐れて、ヒズボラを叩くべく攻撃しましたが、ヒズボラの抵抗は強く、なかなかうまくいきませんでした。

結局、シリアはヒズボラの力を対イスラエルのために使うことが賢明と考え、ヒズボラの支援者となります。こうしてヒズボラはイラン・シリア両国に支えられた大きな武装組織となっていくのです。

いろいろな顔を持つヒズボラ

しかし、ヒズボラは単なる武装組織ではありません。ヒズボラがレバノン国民、特にシーア派住民の支持を得ているのは、ヒズボラによる社会福祉活動です。

それはシーア派住民が難民化して定住した南ベイルート、そして南レバノンで行われました。レバノン政府が供給しないライフラインや住宅などをヒズボラが行っているのです。

それがヒズボラへの支持を集め、ヒズボラは議会に進出。現在では10議席を持ち、連立政権にも参加しています。また、テレビ局・ラジオ局も持っているといいます。

一方では連立政権にも参加する合法的な「政党組織」。しかし一方ではイスラエルと交戦する「武装組織」。ヒズボラは2つの顔を持っているのです。

レバノンに平和は戻ってくるのか?

戦争
常に近隣の国々の「代理戦場」となってきたレバノン、真の平和がなくなるのはいつの日になるのだろう(Photo From Wikimedia Commons in public domein)
たとえいったん停戦が実現しても、ヒズボラとイスラエルとの交戦が続く限り、また同じようなことは起こるでしょう。

ヒズボラを武装解除させることが和平への近道であることはいうまでもありません。しかし、レバノンから撤退したとはいえ、まだレバノンへの影響力を残しておきたいヒズボラ支援国のシリアがこれに反対するでしょう。

しかし、シリアも次第に穏健化しているといわれます。イスラエルは思いきってゴラン高原をシリアに返還し、その見返りとしてヒズボラへの支援をやめさせる、という道もあるように思います。

ただ、ヒズボラはイランも支援しています。特に2005年から就任した今のイラン大統領は強硬派で知られるアフマディネジャード大統領。「イスラエルは消滅すべきだ」など過激な発言を行っています。

このイランからのヒズボラ支援をやめさせないことには、ヒズボラの武装解除はできないこと必至ですから、なかなか困ったことです。

利害関係でヒズボラを支援するシリアと違って、イランはイスラム主義のもと、同じシーア派国家としてヒズボラを支援しています。「見返り」など通用しないところがあるわけです。

このあたりでヒズボラをめぐる和平は手づまりになってしまいます。いったいどうしたらレバノンに平和が戻ってくるのか……中東のモザイク国家・レバノンの苦悩は続きます。

今回の記事「レバノン政治基礎知識2006」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。

▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座

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