全面否認している被告人が保釈されるということが話題になりましたが、それは新しい制度が導入されたからです。……と、まずは逮捕・保釈の起訴知識をご説明してから、新制度(公判前整理手続)についてもご説明していきましょう。
1ページ目 【逮捕についての基礎知識~なぜ人は逮捕されるか】
2ページ目 【保釈についての基礎知識~保釈の条件、保釈金の決定など】
3ページ目 【「公判前整理手続」についての基礎知識~裁判は本当に迅速化されるか】
【逮捕についての基礎知識~なぜ人は逮捕されるか】
そもそも「なぜ逮捕するのか」という根源的な問題から
被疑者が逃亡のおそれがあったり、証拠隠滅のおそれがある場合に防止法として身柄を拘束するのが逮捕であり、正当な理由のない逮捕は許されない |
2つの大きな理由があります。
1つは、逃亡の防止です。
被疑者は悪いことをしていると自覚しているなら、なんとかその罪を逃れようと考えるでしょう。そのための手段として「逃亡」は当然考えられます。その防止が「逮捕」ということです。
もう1つは、証拠隠滅などの防止です。
捜査の手が伸びてくることが分かってくると、逃亡は無理としても、裁判で無罪になったり、証拠不十分ということで釈放されたいと考えたりする被疑者もいるでしょう。そうした被疑者は証拠となるものを隠したり壊したりいろんな手段で証拠を消そうとするでしょう。
また、裁判の前に仲間と綿密に口裏合わせをして、無罪を勝ち取ろうとするかもしれません。
そういったことを防止するための手段としても身柄拘束=「逮捕」の意味があると考えられています。
もちろん、現行犯逮捕などの場合は、証拠はそろってますから、たとえば銃を乱射しているような被疑者はなんとか拘束しないと危険です。そんな危険防止、緊急避難的な意味も場合によってはあります。
「逮捕状」がなければ原則逮捕されない
現行犯などを除いて、普通は裁判所の発行する逮捕状、正式には逮捕令状がなければ、警察官や検察官は人を逮捕することはできません。人を拘束から自由にすること、つまり身体の自由はもっとも基本的かつ古典的な人権です。これを守るため、検察官や警察官が逮捕許可の請求を裁判所に行い、裁判所が逮捕が適当かどうかチェックしたうえで、許可状の意味を持つ令状を発行するのです。
ちなみに、警察官の場合は警部以上の「指定司法警察員」と呼ばれる人のみが請求できます。ヒラの刑事が思いつきでいきなり裁判所に請求する、なんてことはありません。ドラマでも見ませんね。
逮捕するには、「理由」と「必要性」が必要になります。したがって、被疑者に逃亡・証拠隠滅の恐れが全くない、またはなくなった場合、逮捕、そして勾留(こうりゅう:裁判のための身柄拘束)はできないことになります。
なお、現行犯逮捕は当然、逮捕令状が必要ありません。また、直ちに警察官などに引き渡すことを条件に、一般人にも現行犯逮捕権が認められています。
議論があるのが「緊急逮捕」です。拘束してから逮捕令状を請求するもので、正当な法廷手続を定めた憲法違反ではないかという説もありますが、最高裁は合憲との判決を下しています。
なお、逮捕令状は下のような様式になっています。
おそらくこのような形になっているはずです(『現代の裁判』有斐閣刊ほかを参考)。逮捕には裁判所の「許可」が必要であるということがおわかりでしょう。氏名・裁判所名などは実在しません |
逮捕はいつまでできるのか?
逮捕・送検・勾留にはそれぞれタイムリミットがある。警察などが複数の罪を「小出し」にして再逮捕をするのは取り調べる時間を長く取るためで、批判も強い |
厳密にいうと、警察官が逮捕した場合、48時間以内に身柄を検察に送り(送検)、検察官は24時間以内にその後の勾留(こうりゅう)請求(または起訴)をしなければなりません。検察官が逮捕した場合は48時間以内に勾留請求(または起訴)をしなければなりません。
したがって、「逮捕されている状態」は最大72時間までで、そのあとの拘束は裁判所に請求し、認められた上で行われている「勾留」なのです。
「勾留」はいつまでできるのか?
最大20日間、というのが正解でもあり、不正解でもあります。「被疑者の勾留」は10日間と決められていて、延長しても最大20日間までと決まっています。この間に、起訴できる証拠や供述が得られなければ、被疑者を釈放しなくてはいけません。
一方、起訴後、被疑者は「被告人」になります。「被告人の勾留」も、被告人の裁判出頭を確保するため必要なので、裁判所が勾留を命じます。起訴から2ヶ月までを原則とします。
ただし、殺人など重大事件、被告人が常習犯、証拠隠滅のおそれ、被告人の住所が不定な場合は、1ヶ月ごとに勾留期間を更新することができます。
逆にいうと、被告人に重大事件や常習犯ではなく、被告人が証拠隠滅をする可能性がなくなったり、また被告人の住所が何からの手段で定まった場合には、勾留を取り消さなければなりません。
また、100%その恐れがなくても、勾留状態を(外見上)解くことがあります。これが「保釈」というものです。次ページで見ていきましょう。