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教育基本法改正問題・一問一答

教育基本法が制定からおよそ60年を経て初めて改正されようとしています。公共心を養う効果を期待する一方、「愛国心」の押し付けとの批判も強く、後半国会の山場となるでしょう。一問一答形式で。

執筆者:辻 雅之

(2006.05.02)

教育基本法をほぼ60年ぶりに改正するという法案が政府から提出されました。後半国会に山場になりそうなこの「教育基本法」とその改正についての議論、争点を一問一答形式でまとめてみました。

1ページ目 【教育基本法とはどのような法律で、なにが「問題」なのか?】
2ページ目 【改正案にある公共心、そして「愛国心」とはいったいなんなのか?】
3ページ目 【避けて通れない「日の丸・君が代」についても一問一答で解説します】

【教育基本法とはどのような法律で、なにが「問題」なのか?】

教育基本法とはなんですか? 他の法律との違いは?

基本法
ほかの基本法は人間の経済的な行為を主に拘束する指針を示したものだが、教育基本法は教育という精神的な領域への指針を示したもので、他の基本法と性質は大きく異なる
「基本法」の概念を説明するのは難しいことです。基本法も、個別法も、法律であり、対等なわけですから。

しかし、日本のみならず、諸外国では、何かの重要政策の方針を示す基本法を制定することがあります。これを中心として、細かな法律を作っていく、ということです。

日本でも、環境基本法(環境対策)、中小企業基本法(中小企業保護・育成政策)、消費者基本法(消費者保護政策)など、基本法がいろいろと作られています。このように、教育政策の基本法が「教育基本法」というわけです。

しかし、他の基本法がなにかしら経済的な政策の中心となっているのに対し、教育基本法は教育という「人格形成」的な精神世界を規定しているものなので、他の基本法と比較して、いろいろ議論が噴出することになっているわけです。

教育基本法は「教育憲法」ともいわれますが、その意味は?

先ほども述べたとおり、教育政策はこの法律を基本とする、という意味で、教育憲法という言い方をするわけです。

ちなみに「教育憲法」という名前は、教育基本法制定に携わった人たちが書いた『教育基本法の解説』(国立書院から1947年発刊)にたびたびでてくる言葉なので、定着したのだろうと思われます。

しかし、これはあくまで形容詞的に「憲法」といっているわけであって、法律ですから、理論上は、改正は容易に行えます。ただ、この表現が「教育基本法は憲法と並んで絶対不可侵」的な主張のベースにあることは否定できません。

教育基本法は、連合軍によって押し付けられたのですか?

敗戦直後の1946年、アメリカから教育使節団がやってきます。憲法が「GHQの押し付け」といわれるように、教育基本法も使節団の押し付け、という主張がありますが、いささか正確さに欠けるようです。

教育使節団はそれまでの日本教育の基本法的役割を果たしていた、明治天皇の「お言葉」すなわち「教育勅語」について、いちおう着目しています。

しかし、彼らは「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」つまりみんな皇室のために奉仕せよ、という意味の文言と、教育勅語が天皇信仰のシンボルとして利用されていること以外、とりたてて異議を唱えることはありませんでした。

教育使節団はその後、もっぱらアメリカ式の「6・3制(小学校6年・中学校3年)」の確立に力を注ぐことになります。こうして教育基本法は、教育勅語的なものを新憲法に適合したものとして、日本が自主的に制定したものなのです。

そのため、この法律には法律としては珍しく「前文」が置かれています。ここに、「教育勅語の民主的な法としての教育基本法」という役割をみてとることができます。

教育勅語と教育基本法の違いは?

まず、教育勅語は明治天皇が作ったものであり、一方教育基本法は国会が作った、という点で大きく異なります。

内容については、教育勅語が親や夫婦、兄弟や友達といった「集団」への意識を強く持つよう強調しているのに対し、教育基本法では「個人」を強く意識したところが大きな違いと思われます。それは、教育勅語と教育基本法の前文を並べてみるとわかります。

教育勅語(一部)
……臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣ノ世務ヲ開キ常ニ國憲ヲ重ジ國法ニ遵ヒ……

教育基本法 前文(一部)
 われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。 (後略)

教育基本法を改正するということですが、なぜですか?

教育基本法
「個人の尊重」を重視しすぎて、公共心や伝統の尊重、愛国心といった「ふつうの国の国民としての素養」を現行の教育基本法は軽視している、と考える人は多い
教育基本法が少し「個人の尊重」に偏りすぎ、「公共心」とか「伝統」の尊重、さらに一部の人は「愛国心の尊重」などがないことなどを改正すべきだ、ということで、政府は1999年から改正作業を進めてきました。

今回(2006年通常国会)で提出される改正案での前文を一部抜粋してみました。

……個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の想像を目指す教育を推進する。(後略)

個人の尊厳だけでなく、公共心を尊重し、伝統を重んじよう、ということがはっきり明記されています。

たとえば街にある公の看板などに若者がスプレーで落書きをする。電車のような交通機関で騒ぐ人たち、携帯で話したりお化粧をする人たちがいる。この間、法隆寺の建物をえぐるような形の落書きがみつかったように、伝統への配慮が欠けている。……

このようなことは由々しきことで、なんとかしなければいけない、ということなわけです。

しかし、それに対して「個性の埋没をすすめる」「公共心の押しつけ」「愛国心を植え付けようとしている」などという批判があります。次のページでそのあたりの質問にお答えします。
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