2ページ目 【左右対立だけでは語られない、フランスの政治勢力】
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【「中道共和国」になったフランスの抱える新たな悩み】
「第5共和制」の成立とド・ゴール
大統領は議会解散権、首相任命権に加え、いざというときに「国民投票付託権」を用いて重要問題を直接国民に問うことができる。 |
第5共和制においては、大統領の権限が大幅に強化され、大統領は首相を「副官」として扱えることができる一方、大統領に下院(国民議会)解散権と国民投票付託権という大きな権限を与えました。
国民投票付託権は大統領のもつ大きな権限です。これにより、議会を「無視」して立法などを行うことができるからです。……もっとも、付託した案件が否決された場合、大統領の威信は大きく低下することにもつながるのですが。
ともかく、ド・ゴールはある意味近代政党政治を嫌い、国民が大統領のもと団結する国家の樹立を図っていたといえます。そういう意味で、国民の支持にもとづいたカリスマ的支配であった「ゴーリズム」は、「ボナパルティズム的」であったといえるでしょう。
フランス政治の2極化と中道化
しかし、ドゴールの後、ゴーリズム勢力は政党化し、議会派と争う中で次第に中道化していきます。カリスマがいない「普通の政党」になったゴーリストが選挙で勝つにはやむを得ない選択だったでしょう。そして、ミッテランによる14年間の社会党支配です。もちろんこの間、下院の多数党が保守政党であったことから左派大統領と右派内閣が共存する「コアビタシオン」という特殊な状況も生まれました。
このようななか、共産党は埋没し、社会党もまた政権政党として、しだいに左から中央にシフト、「中道化」が進んでいったのです。
かくして、フランスは中道左派、中道右派勢力が並び立ち、左右勢力の政策にあまり違いのない二極化が進んでいくことになりました。
この二極化には、大統領選挙の「2回投票制」もかかわっていると思われます。フランスの大統領選挙では、過半数を獲得した候補がいない場合、上位2名による決選投票になります。
かくして、左右両勢力は、大統領選挙で勝つため、より中道化し、左派は右から、右派は左から、票を奪おうとします。このことにより、フランス政治の二極化と中道化は進んでいったと考えられています。
「中道政治国家フランス」への国民のいらだち
ゴーリズムと社会党の中道化により左右対立は無意味になってしまった。それへの不満が極右・極左の台頭、そして「直接行動」を生んでいるのか? |
そのため、国民の不満は、まず極右・国民戦線FNへの支持となって現れました。FNは97年選挙で14%の得票をおさめ、2002年の大統領選では党首ルペンが第1回投票で第2位となり、決選投票に駒をすすめるという衝撃をもたらしました。
さらに、国民の政治への伝統的な「直接行動」も増加していっている……これが昨年の移民系青年暴動であり、今回のCPE騒動に現れているのかも知れません。既成政党が自分たちの不満を十分消化してくれない以上、彼らは自ら立ち上がらずをえなくなったからです。
ド・ピルパン首相は官僚出身で、政党人ではありません。ナポレオンを尊敬する彼は、ある意味「ボナパリティズム」の申し子なのかも知れません。しかし、彼のカリスマは昨年の移民暴動とCPEで大きく傷付きました。
そういった意味で、今の大きなCPE抗議運動は「ゴーリズム」に対する「5月革命」と同様、「ド・ピルマティズム」に対する「3月革命」(もしくは4月革命?)なのかもしれません。
悩める大国フランスの今後は?
大きなカリスマ権威がなければ統合性が崩れる今のフランス第5共和制。一方、政党の中道化によって国民に選挙での選択肢を奪い、ややもすれば極右・極左勢力を伸ばしたり、あるいは直接行動に訴えるしかない状況に追い込まれた国民。そうはいっても第5共和制は安定、成熟してきていますので、大きな国家分裂を生じることはないようですが、大国フランスの悩みの種は、今後も続いていくように思えます。
※「悩める大国・フランス政治と国民」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
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