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懲罰って?国会の「議院自律権」基礎知識(2ページ目)

赤じゅうたんを踏む国民の代表・国会議員。その威厳を保つために、国会議員や各議院には自分たちを律することが必要になります。国会議員の懲罰は、その一環として行われる行為なのです。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【民主議会に必要な自律権、それを確保するための権利としての懲罰権】
2ページ目 【日本の国会はどういうふうに国会議員に懲罰を与えるのか、その種類は?】
3ページ目 【たとえどんな懲罰が下っても、国会議員は裁判所に訴訟を起こせないのか?】

【日本の国会はどういうふうに国会議員に懲罰を与えるのか、その種類は?】

懲罰委員会の委員はかなり豪華メンバー

懲罰委員会
懲罰委員会は元首相や党首クラスを含めたかなりの豪華メンバー。国民の代表に懲罰を与えるのだから、それだけ威厳が必要ということか
懲罰は、衆参各院とも常任委員会である「懲罰委員会」で話し合われた後、委員長が議長に報告、議院の議決を経て議長が議員に懲罰の宣告をすることになっています(国会法121条1項)。

懲罰委員会のメンバーは、かなり豪華です。平成18年3月9日現在のメンバーは……

委員長 岩国哲人議員(民主党、前出雲市長であり、熊本県知事時代の細川護煕元首相との共著『鄙(ひな)の論理』は当時話題に。地方分権に詳しく、中田横浜市長ともつながりは深い)

理事 島村宜伸議員(自民党、郵政解散の時、解散を1人拒否して罷免されたあの元農水相)

その他の委員:
甘利明議員(自民党、労相・予算委員長を経て現在自民党政調会長代理)
太田誠一議員(自民党、TVでの露出も高い元祖政治改革の論客)
海部俊樹議員(自民党、ご存じ元首相、ミスター・クリーン)
久間章生議員(自民党、現在は自民党3役、総務会長の要職)
古賀誠議員(自民党、旧堀内派の筆頭、元幹事長)
田野瀬良太郎議員(自民党、当選5回ながら議院運営委員長筆頭理事)
中山成彬議員(自民党、元文部科学大臣、厚生労働委員長)
村上誠一郎議員(自民党、前規制改革・産業再生機構特命大臣)
森喜朗議員(自民党、誰が文句つけようと前首相で最大派閥のボス)

小沢一郎議員(民主党、おなじみ55年体制崩壊の仕掛人、ミスター剛腕)
川端達夫議員(民主党、前幹事長、今は国会対策委員長代理)
菅直人議員(民主党、おなじみ元代表、エイズ問題解決の厚生大臣でもあり)
平野博文議員(民主党、川端議員同様、現在は国会対策委員長代理)
坂口力議員(公明党、ハンセン病問題解決など尽力したあの元厚生労働相)
綿貫民輔議員(国民新党、郵政国会ではさんざ露出、元衆院議長)
平沼赳夫議員(無所属、一時はポスト小泉、離党した今も発言の多い注目議員)
堀内光雄議員(無所属、元自民党総務会長、去年までは第3派閥の領袖)

首相経験者2人、党首経験者5人、その他もなかなかのメンバー。昔は首相を辞めたあとの中曽根康弘氏や宮沢喜一氏らも委員を務めていました。やはり懲罰委員会、委員に権威がないといけない、ということですね。

懲罰の種類は4つ

懲罰の種類は、このようになっています(国会法122条)。

○戒告
○陳謝
○登院停止
○除名

ただし、衆参各院の規則で、登院停止は30日までと決まっています(衆議院規則第242条、参議院規則242条)。登院停止30日の次がいきなり除名、というのはどうなのだろうか、という議論があります。

除名は、憲法により、各院の本会議にて「出席議員の3分の2以上」の賛成がないと、行うことができません。選挙で選ばれた人ですから、選挙民の声を無効にするためには、厳格な要件が必要とされています。

2004年、実際にあった懲罰決議をみてみよう

懲罰
許可されなければ、懲罰にかかる議員は、議場から退出し、議決を待たなければならない。
具体的に、ケースを見ていきましょう。2004年8月4日、衆議院で民主党の津村啓介議員(現職)を懲罰に付すため、懲罰委員会が開かれました。参院議長の登院を妨害したというのが理由です。

議事録を見ると、まず自民党の小林興起議員(当時、2006年現在は新党日本、議員ではない)が懲罰動議を出した代表者としてその理由を説明しています。

懲罰の動議は、衆議院で40人以上、参議院で20人以上の議員によって、提出することができます(国会法第121条)。

その後、戒告を行うべしとの動議が委員から出され、討論なしに、起立投票で可決されました。

そして8月5日、本会議で懲罰委員長が報告し、懲罰が本会議ではかられることになりました。このとき、会議録を見ると、採決に先立ってこんなことが行われています。

○議長(河野洋平君) 日程第五、議員津村啓介君懲罰事犯の件を議題といたします。
津村啓介君の退席を求めます。
委員長の報告を求めます。懲罰委員長佐藤謙一郎君。


衆議院規則では、懲罰対象となっている議員は、会議から外れなければならないことになっています。ただし、許可されれば弁明の機会が与えられます(衆議院規則第239条)。参議院も同様です(参議院規則第240条)。

そして起立採決で津村議員への戒告が決定。会議録ではこうなっています。

○議長(河野洋平君) 津村啓介君の入場を許します。
ただいまの議決に基づき、議員津村啓介君に対し懲罰を宣告いたします。
去る六月五日の参議院における議員津村啓介君の行動は、平成十二年十月十二日の議院運営委員会の申合せに反し、二院制の根幹にもかかわる不穏当なものである。
本院の品位を著しく傷つけ、国会の権威を貶めるかかる事態が再び惹起されることがあってはならない。
よって、国会法第百二十二条第一号により、ここに議員津村啓介君を戒告する。


ちなみに、「陳謝」の場合、懲罰委員会が陳謝文を起草し、これを本会議場で懲罰を受けた議員が読み上げることになっています(衆議院規則第241条、参議院規則241条)。

懲罰の内容を不服とした裁判は起こせる?

さて、この懲罰に対し、議員は裁判所に不服を申し立てることができるのでしょうか? 次ページで見ていきます。

(議事録は国立国会図書館運営のサイト「国会会議録検索システム」より引用しています。)
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