2ページ目 【「勝ち取られ、守るべき言論の自由」──ヨーロッパの論理】
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【21世紀初頭の今、世界は「イスラムの時代」イスラム教への理解を】
もしこれが1960年代だったら、展開は違ったかもしれない
問題の紙面のコピーを入手して手にとる筆者。第3者的に見ても、イスラム教だけでなく、ムスリムたちそのものが笑いの対象にされているように感じてしまう。 |
しかし今、時代は「イスラムの時代」であることをわれわれは認識しなければなりません。
確かに20世紀に入ってからずっと、中東は不安定な状態にあり、石油利権や、イスラエル=パレスチナ紛争をめぐって、戦争、その他の武力紛争、ゲリラ、テロなどが頻発してきました。
しかし、1960年代まで、多くの国はイスラム主義より世俗主義をとりました。
たとえば1920年代、トルコの指導者アタチュルクは政教分離政策を押し進め、アラビア文字からローマ字を採用するなどして、近代化政策を行いました。
戦後、中東にイスラエルが生まれると、近隣のアラブ諸国は近代化を急ぎ、エジプトでは革命が起き、大統領となったナセルは社会主義に接近しました。社会主義と宗教はあい入れる関係ではないので、イスラム主義は弾圧されました。
イラクのかつての支配政権、今シリアにも残るバース党も、そういった世俗主義的、かつ社会主義的な政権でした。ムスリムの多いインドネシアも、建国の父スカルノは共産党と接近しました。
イスラム勢力が優位だったのは、イスラム主義をかかげるサウジアラビアなどにとどまっていました。
21世紀初頭のいまは「イスラムの時代」
しかし、1970年代ごろから、進まない近代化と、停滞する世界の社会主義経済の状況に人々は失望していきます。ここから、イスラム主義が台頭してきました。つまり、近代化とそれにともなう工業化は、結果的に貧困の差を産み(社会主義的に行われたにもかかわらず)、彼らは「全ムスリムの平等」を唱えるイスラム教に、回帰していくことになるのです。
それは1979年のイラン革命にはじまり、80年代からのイスラム原理主義の台頭、サウジら産油国でかつイスラム主義諸国の発言力の台頭などにみてとれます。
そしてイスラム原理主義者の過激派は相次いでテロを起こし、エジプトでもイスラム原理主義組織が復活、そして先だってはパレスチナ総選挙で原理主義組織ハマスが圧勝を収めました。
21世紀初頭の今は、まさに「イスラムの時代」なのです。
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アメリカだけでなく、ヨーロッパもイスラム教には無理解だったか
西ヨーロッパのマスメディアは、こうした動きにうといのでしょうか。地理的にはむしろ日本より近いところに中東などイスラム圏はあるのですが。こう考えると、フランスやドイツらを中心とした、イラク戦争への反対は何だったのか、と思ってしまいます。彼らの不戦への思いは、ある意味賞賛されました。しかし、彼らは、だからといってイスラム教、ムスリムたちへの理解が十分ではなかったのでしょうか。
こう考えると、イラク戦争を起こした当のアメリカの有力メディアが風刺画の掲載に踏み切らないのはなんとも皮肉なことのように思えてしまいます。
国民・民族のアイデンティティにかかわる象徴を汚してはならない
たとえ「日の丸反対」の人でも、外国人によって日の丸を汚されたりするのを目前にして、いい気持の人はいないだろう。民族には触れてはならない象徴がある。 |
または、日の丸にいたずら書きや足あとをつけられ、さらされている。君が代のメロディーで日本を馬鹿にする歌をうたわれる。「日の丸・君が代、反対!」な人でも、いい思いはしないはずです。
天皇、日の丸、君が代は日本の象徴的存在(天皇はそのものですが)だからです。これらがじゅうりんされて、気持ちのいい日本人はいません。
ましてや、イスラム主義が進む昨今で、イスラム教の象徴的存在の1つであるムハンマドを「コケにした」わけですから、ムスリムたちが強烈な不快の念を抱くことはいうまでもないでしょう。
「言論の自由」と「人種差別」
最後に、国連で採択された人種差別撤廃条約を見てみたいと思います。第4条(a)
人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
メディアに処罰などの罰則を科すことには反対ですが、メディアも、この条約の趣旨を踏まえて、自制した報道をするべきではないでしょうか。
ヨーロッパメディアは一連の風刺画の掲載を「言論の自由のテスト」としているようですが、他にもテストできる方法はあるのでは……と思ってしまいます。
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※「「ムハンマドの風刺画」怒る人々、掲載する人々」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
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