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直接民主制は「民主主義」?(3ページ目)

民主主義をトレーニングするシリーズ第2弾。直接民主主義こそ本来の民主主義だ、という主張がありますが、どうなんでしょうか。先人たちの言葉を借りながら、解説していきます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【議会制民主主義は「ドレイ」の政治か?】
2ページ目 【国民投票の意義と問題点】
3ページ目 【そもそも・・・「絶対に多数の意見が正しい」のか?】

【そもそも・・・「絶対に多数の意見が正しい」のか?】
多数の意見は「間違わない」のか?


そもそも問題なのは「決して多数の意見は間違わないのか?」ということです。

さっきのルソーさんですら、『社会契約論』のなかで「一般意志は誤ることができるか」という章を立てているくらいなのですから。

ルソーの結論は「誤ることはないが、徒党を組んで人を欺き、かれらのための意志(特殊意志)を一般意志だとみんな勘違いしないようにしよう」というものでした。

マス=メディアによる世論操作や、一部政治家のデマゴーグ的言動など、現代民主政治にもあてはまる重要な教訓といえますね。ともかく、ルソーの結論を別の角度からいうと「一般意志とちがうものを一般意志だと間違えることはあるから注意しよう」ということ。

もう1つ、ルソーは「一般意志=みんなのための意志」と思ってますからこれは1つしかない、全員一致になるはずだ、という前提ですが、どうでしょうか。すくなくても現実にはなかなかそうはなりません。

たとえば、1995年にカナダの一州、ケベックの独立を問う住民投票では、

●独立賛成 49.4%
●独立反対 50.6%

とすごい小差で独立が否決されました。これなんかのはずみで、ケベックが独立していたかもしれない感じですよね。そのとき、ほぼ半数の人々は、わずか数人かもしれない差のために、カナダという国から無理矢理お別れしなくてはならないわけです。

こんなことを考えると、「一般意志」がいったいなんなのか、よくわからなくなってしまいます。

とどめは、かの古代ギリシアの大思想家ソクラテス。かれは無実の罪なのに投票によって死刑を宣告され、死んだ人です。

このとき、弟子のクリトンが手配がついたからとっととにげろ、とソクラテスに脱獄をすすめますが拒否した話は有名です。このときの本『クリトン』では、

多数の意見は、必ず正しいのかね

というソクラテスの言葉がでてきます。彼は多数の意見によって、無実の罪で処刑されてしまうのです。

ありゃりゃ、なんか深入りしてきてしまいました。次回は、ソクラテスやプラトンの思想に深入りしながら、民主主義を鍛え直していきましょうか。

「民主主義を甘やかすな!」第一弾はこちら。
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