北向きの快適空間
「南向き神話」に疑いを投げかけるある建物。それは、以前に「ガイドが大好きな家(3)」でレポートした「江戸東京たてもの園」の西ゾーンにある、常盤台写真場です。
常盤台写真場は、東京都板橋区常盤台一丁目に昭和12年(1937年)に建てられた写真館です。ここを訪れて驚かされるのは、2階にある、今でいう撮影スタジオです。広々としたスタジオの北側一面がすべてすりガラスの窓になっているのです。これは、照明器具が発達していない当時、安定した照度を得るために考え出された方法だとか。
つまり、北側に大きく窓をとれば、1年中「安定した採光」が可能ということ。撮影には、西日のように赤みの強い光に影響されず、「安定した光」による環境が重要なのだそうです。北に大きく開いた空間でも、四季を通じて明るく開放的な空間ができるということでしょう。事実、私が訪れたのは5月でしたが、外は日差しが強く、汗ばむほどの日だったにもかかわらず、スタジオ内は柔らかな光に満たされていて、穏やかな空間になっていました。ココなら撮影される人も自然と和んでいい写真が撮れたかもと想像できる空間なのでした。
このように発想を転換することで、土地の向きのデメリットは克服できるコトもあるようです。最近では、この土地の向きによるデメリットを、科学的に克服する方法もあるようです。それは「27℃より30℃のほうが快適?」という記事でご紹介した「採光・通風シミュレーション」です。
どんな方位でも快適な家がつくれる?!
この「採光・通風シミュレーション」は、正確なデータをもとにシミュレーションをして、その結果としての採光・通風プランを実際の間取りに活かせるというもので、あらゆる地形に対応できるだけでなく、隣接する建物のデータも反映させることができます。季節にも対応できるので、真夏と真冬の差も考慮して、開口の位置や大きさを決めることができるという、優れたシステムなのです。
たとえば、周囲に既存の住宅が立て込んでいる土地や、いわゆる旗竿地のような土地でも、シミュレーションが可能で、冬至と夏至の採光・通風の違いを見ることができるのです。これにより、1年を通じて家のどこまで光が入るのか、どのように風が通るのかを見ることができ、開口の大きさだけでなく、リビングや寝室などの位置関係を見直すこともできます。シミュレーションによっては、2階にリビングをもってきたほうがいい、なんてこともわかるのです。
やっとの思いで探し出した土地が、方位的に理想とは異なる土地だったとしても、このシステムを利用することによって、断熱性・気密性など住宅性能の高い家を選択すれば、「南向き」にこだわらなくても、自分が望む快適な空間ができ上がる可能性が高まるというわけです。また逆に、方位的なデメリットをプランニングによってカバーできるとわかっていれば、土地選びの幅がグンと広がるかもしれません。一部の住宅メーカーでは、このような採光・通風のシミュレーションを活用していますし、実際のシミュレーションの例を見せてくれるところもあるようです。
どこにどのような開口部を設けると、効果的な通風・採光が得られるかが事前にわかれば、プランニングの失敗がなくなるのでは? |
大切なのはどんな家にしたいか
「採光・通風シミュレーション」を利用することで、土地選びの要素のひとつは、選択肢を広げることが可能です。ただ、土地選びにはまだまだ多くの要素が絡み合うことなので、このシミュレーションだけで即解決とはいかないことも多いでしょう。それに、家を建てる人に「こんな空間にしたい!」という具体的なイメージがなければ、いくら優れた「採光・通風シミュレーション」でも、よいプランニングはできないでしょう。大切なのはどんな家にしたいか、具体的なイメージを検討しておくことです。シミュレーションは、家を建てる人のお手伝いはしてくれますが、「こんな空間にしたい!」とイメージをするのは、建てる人自身です。
それから、このシミュレーションは、風水までは対応していませんので、気になる方は家相・風水のサイトへどうぞ!