土地活用のノウハウ/土地活用における税金対策・節税対策の知識

大家さんの確定申告は、自分でしよう!

賃貸住宅経営を行う場合、中には手間のかかる作業もあります。確定申告もその一つで、税理士さんに依頼されている方も多くいらっしゃいます。でも、税理士さん任せにすると、財産状況が見えなくなり、結果として財産価値を減少させてしまうこともあります。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

確定申告。自分で行う大家さんと、行わない大家さんの違い

貰った領収書は気になるものです。

貰った領収書は気になるものです。

ある大家さん(Aさん)がご相談に来られ、会食した際のことです。「谷崎さん、ここの飲食代は私が支払います。でも、これって経費で落とせないんですよね?」と、私はAさんに尋ねられました。

私は即座に、「えっ?大丈夫ですよ。経費に計上してください」と答えました。しかし、Aさんは曇った顔で、「でも、うちで頼んでいる税理士さん、アパート経営に会食は関係がないから経費の扱いにはできない……」と。

「そんなことはありません。今日、私は、Aさんの賃貸住宅経営に関するアドバイスを差し上げるだけのためにここに来ています。ここの飲食費は、税務申告上の『経費』とできることに間違いありませんよ」。

実は、Aさん、税務に関しては完全に税理士さん任せで、領収書の束一年分と預金通帳を年一回、まとめて担当税理士さんへ預け、申告作業のすべてをお願いしているのでした。以前の申告の際、私やリフォーム会社さんとの会食にかかった飲食代金の領収書を「必要経費になるのではないか」と、その税理士さんに渡したところ、答えは「NO」。突き返されてしまったということなのでした。

「Aさん、何も私とクラブで豪遊したわけではないのですから、今日の飲食費は賃貸住宅経営のための正当な経費です。税理士さんにしっかり説明してください。きっと理解してくれますよ。もし駄目ならば私からお話ししてもいいでしょう」。私はAさんにそうアドバイスし、その日は別れたのでした。

しかし、私の胸に湧き上がった不安はその後も晴れませんでした。「飲食費を経費に計上できる、できない」の問題ではなく、それ以前に、そもそもAさんが確定申告をすっかり他人任せにし、自分で行なっていないことが、私には心配に思えてしかたがなかったのです。

確定申告を自分で行う大きなメリットとは?

さて、今回は「確定申告」のお話です。私から皆さんへ、強くお勧めしたいのはこのひと言、「大家さんの確定申告は自分でしよう!」。

大家さんが確定申告を自分で行うことには、大きなメリットがあるのです。

一つは、「自分の持つ財産とその状態を知ることができること」。「それに基づく長期の賃貸住宅経営計画を策定することができること」。確定申告を自分で行うことによって、賃貸住宅経営者がもつべき、もっとも大切な視点が養われるのです。

10年で1億2千万円! 収入の違い

確定申告で資産価値向上を…

確定申告で資産価値向上を…

具体的にお話しましょう。たとえば大家さんが確定申告を自分で行なうと決め、作業を始めると、すぐに「減価償却」という存在に気が付くはずです。建物や設備に投下した費用を耐用年数で分割し、毎年の経費として計上していく手続きのことですが、この減価償却を少し勉強することで、大家さんは自分の持つ資産の状態を詳しく把握できるようになるのです。どういった設備が長持ちし、何がそうでないのかという認識が深まるのです。同時に、減価償却を知ることは将来にわたっての所得税額の推移予想にも役立ちますから、より確実な修繕計画を策定しやすくなるわけです。

税額推移の予想に役立つという点で言えば、返済金利を把握できることでも、「自分で行う確定申告」が大いに役立ちます。経費である金利の推移を把握することは、賃貸住宅経営の将来を見通すためにとても重要です。更に、日常の修繕、原状回復費用など、自らの賃貸住宅経営において「何にお金がかかったのか」、「その効果はどうだったのか」、確定申告を通して過去を知り、分析することができるのです。当然、それに基づいた将来への資金準備や投資計画もより堅実なものとなるわけです。

建物に有効な投資をする(経費をかける)

節税となり、併せて資産価値が高まる

資産の寿命が延び、順調な賃貸住宅経営が長期にわたって続く

経営資金もつねに潤沢!

こうした上向きのスパイラルを実現する基本に、「自分で行う確定申告」があると言っていいでしょう。逆に、多くの「確定申告は他人任せ」な大家さんが陥っているのが次のパターンです。

自分で確定申告しない=そもそも自分の資産を把握していない

管理が手薄となり、物件が早期に老朽化する

建物が荒れ、入居者マナーが低下、滞納・空室が増加する

20~30年で資産価値は消滅!

いわゆる負のスパイラルです。そこで簡単に計算してみましょう。順調な賃貸住宅経営によって、負のスパイラルに陥った場合に比べて10年長く物件を貸し続けられたとしたら……

家賃月額10万円・10部屋として、
10万円×10部屋×12か月(1年)×10年=1億2千万円

経営寿命が10年延びれば1億2千万円の収入となります! この大きな違いのベースとなるのが、毎年確定申告を自分で行なうことによる、しっかりとした財産と経費の把握なのです。もちろん、実際には空室の発生、修繕費、家賃を下げざるを得なくなる何らかの状況に立ち至る可能性なども考慮しなければなりません。しかし、それらを差し引いた上でも、この金額に近い違いが生ずることは決して絵空事ではありません。


確定申告手続きに有利な「大家業」

大家業の確定申告はやさしいものです。

大家業の確定申告はやさしいものです。

とはいえ、「やっぱり数字との格闘は面倒」と、おっしゃる大家さんも少なくありません。しかし私は、そんな大家さんには、もう一押し、こんなお話をさせていただくのです。

「大家業ほど申告作業が楽な業種はないのですよ」。

なぜならば、多くの賃貸住宅経営において、収支内容は概ね毎月一定です。入金元、支払先の数は少なく、それぞれが固定的で金額も固定的です。年間を通して考えてみても、概ね一定している場合が多いので、とても把握しやすいのです。飲食業やほかの様々な業種と比べてみると、その大きな違いがよくわかるはずです。

事業に必要な経費の支出は、他の多くの業種では毎日のように発生します。把握が大変ですが、大家さんは違います。経費の支出は頻繁に起こることではなく、その回数もごくわずか。しかも定例的なものが多いのではないでしょうか。賃貸住宅経営は、収入・支出の把握がとても楽な事業なのです。

それ故、私は自分で確定申告を行おうと考えている大家さんに対し、さらにもう一押し、「青色申告」をお勧めしています。青色申告者になると、「特別控除」や「損失の繰越し」などの節税メリットが受けられ、不動産所得が事業的規模になれば、「事業専従者給与の必要経費への算入」の適用があります。

「青色申告する場合、面倒な帳簿をつけなければならないと聞いていますが……」。確かに普通に確定申告することに比べ、手間は増えるでしょう。しかし、帳簿をつけるにあたっても、「申告作業が楽な大家業」の原則は健在です。ぜひ、税務署の相談窓口の門を叩いてみてください。また、街の本屋さんにはわかりやすく書かれた確定申告の手引書があふれています。それらを参考にされるのもいいでしょう。忘れてはならないのは、「自分で調べ、勉強し、実践することに価値がある」ということです。

「でも谷崎さん、賃貸住宅経営者向けの手引書というのが見当たりませんが……」。

気付かれましたか、そうなのです。大家さんの確定申告は作業があまりに楽なので、そうした本は出版されていないのです。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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