包丁のふるさと
大阪・堺の町を訪ねて
堺の町の大通りに珍しい路面電車(阪堺電軌・阪堺線)が走る。
南は浜寺、北は恵比須町まで伸びる。
阪堺電軌は明治43年に設立され、南海電車との競合の末に、
大正4年に合併したが、
近年、低公害で庶民の足としての路面電車の再評価が高まり
昭和55年ふたたび南海電車から分離独立した歴史を持つ。
この道路に面した一角に「堺打刃物司・一竿子忠綱本舗」の看板のかかる旧家を見つけた。刃物ミュージアムでは日曜日なので何処も見学はできないといわれていたので、営業中の看板を見つけ小躍りして店内へ!
店主の永田幸彦氏が快く店内の庖丁類を詳しく説明してくれる。
ひょっとして庖丁工房で日曜でも見学できるところがあるのか聞いたところ、”ウチでよければご覧になりますか?”という願ってもないご返事!!
なんと店の奥は研ぎ師の工房でした。日曜で職人は休みだそうで実際には稼働していませんが、一昔前の町工場の様相がそのまま残っている。
鋳物師から届けられた庖丁の原型は、まずこのグラインダーで荒削りされる。
注文された庖丁の形に合わせて荒削りされるが型紙などは一切なく、職人の勘がものを言う。
回転砥石でより磨きをかける。永年の間に削られた鉄粉が壁板にこびりつき、奇怪な層を作っている。モダンアートの作品にも見えるが、ハードな仕事の創り上げた造形に感動させられる。
檜製の木製回転グラインダーでは、ニカワと金剛砂を庖丁につけ上から少しずつ水をたらしながら、研ぎ上げていく。
永田幸彦氏がオリジナルで開発したという電気炉を使って焼きなましをおこなう。電気炉は温度管理が微妙にできるため高品質な庖丁を作れるようになったという。
バフ研磨のバフ。仕上げ段階が近づくとバフの出番となる。
最後の刃付けの工程は、やはり伝統の砥石が必要になる。
この店で購入した庖丁は最後の刃付けを料理人の求めに応じて微妙に仕上砥石を使って仕上げてくれる。
作業場の片隅には研ぎ場が用意され、料理人たちに購入した庖丁の実際の研ぎ方を教えている。
先日も「吉兆」の調理場をのぞいたら、若い調理人が刺身をステンレス庖丁で切っているのを見つけ、”和食の素材は和包丁でないと味が出んやないか!”と厳しく叱りつけ、ウチで庖丁の研ぎ方を教え込みましたんや!と面目躍如の面持ち。
練習用の研ぎ場。ここで庖丁研ぎのコツやポイントが直々に教え込まれる。あまり研ぎすぎるのも庖丁の減りが早くなるので、一般家庭では1ヶ月に一度程度で良いそうだ。普段使わない庖丁はクレンザーで汚れを落としてから熱湯をかけて乾拭きし、椿油などの植物油を薄くかけてから、さらし布や新聞紙でくるんで保存する。
とにかく錆びさせないようにすることが大切だ。
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