包丁のふるさと
大阪・堺の町を訪ねて
リフォームフェアin大阪の講演翌日、
地下鉄難波駅から南海電車に乗って丁度10分足らずで到着する
包丁の生まれ故郷・堺の町を訪問してきました。
その昔訪れたことのある南海電車・南海線の堺駅前は、
すっかり整備され面影はほとんど残っていません。
早速、駅前からタクシーに乗り「堺HAMONOミュージアム」を訪問しました。
「堺HAMONOミュージアム」は堺刃物商工業協同組合連合会の運営する2000年7月に竣工した「見て」「触れて」「体験できる」施設です。
堺の刃物は、優れた「鍛治師」の仕事とそれを最大限に生かす刃付けを担当する「研ぎ師」の仕事に分業されており、そのコラボレーションの結果生まれる「切れ味の良さ」が料理人の支持をあつめています。
全国の刃物の生産量の7%ほどのシェアですが、業務用といわれるプロの調理人用庖丁のシェアでは90%近くを誇っているといいますから、その品質の高さが分かります。
展示館の内部、あらゆる種類の庖丁がグループごとに展示されている。
一般的な庖丁以外にも珍しい庖丁が並んでいます。マグロ庖丁とソバ包丁。式庖丁というのは日本古来の調理儀式「式庖丁」に使われる格式ある庖丁のことです。
式庖丁は古来皇室の調理法として知られ、庖丁と箸だけを使って大きな俎板の上で鯛・鯉・真魚鰹などを調理する儀式で毎年10月17日と11月23日に千葉の高家神社で執り行われます。他にも奈良の漢国神社、滋賀の日吉神社、鳥取の出雲大社、盛岡の八幡宮など日本各地の由緒ある神社でおこなわれています。
こちらも特殊な庖丁で、写真左から「畳庖丁」「中華庖丁」「すし切り」「桑切り」「鯨切り」「すいか切り」、上の両側に握りのあるのは「餅切り」と、見たことのないような庖丁が並ぶ。
鍛治師の仕事場の再現。鍛冶場の工程の概略は次のようになります。
1:
地金(軟鉄)と刃金(鋼)を接着する工程がまず最初。炉で熱した地金をたたきながら、刃金と合わせ炉に入れて火造りしながら「刃金付け」をする。
2:「先付け・切り落とし」では動力ハンマーでたたきながら庖丁の外形を作り、地金と刃金をなじませる。
3:「中子とり・整形」では再び炉に入れてハンマーで整形し、叩き伸ばしながら柄の部分を作る。
4:わらの中に入れて徐々に熱を冷ます「焼きなまし」。
5:「粗たたき・裏すき」は酸化皮膜を叩いて剥がし、グラインダーで刃がついている側を研磨してくぼませる。
6:庖丁のひずみやゆがみを取り、型に合わせて余分な部分を断ち落とす「仕上げおろし・断ち回し・歪みとり」。
7:「刻印打ち・摺り廻し」裏に刻印を打ち、グラインダーで仕上げ修正を加える。
8:「泥塗り・焼き入れ」では泥を塗り800度の炉で焼き入れをする。
9:刃金に粘りが出て欠けにくくするために「焼き戻し・泥落とし」をおこなう。
10:歪み直しで最終段階を迎える。
研ぎ師の仕事場を再現し、実演もやっている。研ぎ場の工程は次のようになります。
1:鍛治師の行程を終えた庖丁は、回転砥石で全体を荒く研ぐ「荒研ぎ・歪み取り・平研ぎ」 で刃の角度を決める。
2:「バフあて・歪み取り・タガネ入れ」で砥石の目を落とし、金床の上でタガネを入れゆがみを修正する。
3:庖丁の刃先を研ぎ、刃をつける「本研ぎ・刃引き・歪み取り」。
4:鍛冶ですいた裏側をさらに磨いてきちんとしたくぼみを作る「
裏研ぎ・バフ・刃あて・バフ」。
5:庖丁に金剛砂を塗って木製の回転木研を使って仕上げる「木研あて・歪み取り・際引き」。
6:「ボカシ・小刃合わせ・水拭き」では、泥状の砥石の粉をゴム片につけて切刃をこすると軟鉄の部分はくもり、刃金部分はツヤが出てくる。細かい砥石で刃先を仕上げ、カエリを取り切れ味よく仕上げる。
7:「油ひき・柄付け」の最終段階では水を拭き取り、錆び止めの油ひきをし、最後に柄をつけて完成する。
鍛冶師の仕事はこの写真にあるように、軟鉄とハガネを打ちあわせた、四角い角板から順に一番上の状態まで叩き続けて刃物の原型を作る仕事です。歌にもあるようにトンテンカンテン毎日朝から夜まで熱い炉の中で熱した鉄片を根気よく叩き続けるため、ここ堺の町でも近隣からの苦情が絶えなくなってきているようで、土曜日曜は鍛冶場はほとんど休みのところが多いそうです。
展示即売場。鍛冶場と研ぎ場の実際を見学し、最後に美しくし上がった庖丁を見ると、庖丁造りが如何に根気と体力を要する仕事かがよく理解できます。
何気なくキッチン用品売り場で手に取っている本物の手づくり庖丁と、プレスで量産される安価な庖丁との違いも念頭において庖丁選びをする必要性を感じました。
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