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「田舎暮らし」。自然の癒しに囲まれて、趣味を活かした仕事での~んびりと晴耕雨読。
「起業」。安定収入を手放し、ゼロからスタートするモチベーション(やる気)・スピリット。
この一見相容れないような二つの視点をクロスさせ、田舎で果敢に挑戦している人達がいます。
以下、田中淳夫氏著の「田舎で起業!(平凡社新書)」を参考にさせていただき、起業・仕事という視点から眺める、新しい田舎暮らしの生き方の提案をご紹介します。
さて、彼らはどんな発想でどんなやり方で、田舎でのビジネスとライフスタイルを実現したか。
山里に寒波襲来!
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上勝町は、つまもの産業で大成功を収めた町です。つまものとは、料理に添えて季節感を演出したり料理を彩る、飾りとなる品。刺身などの皿の脇に一差しの葉や枝、紅葉したモミジ葉や松葉、梅や桃の一輪の花…。特に和食の世界では重要な役割りを担っています。
今ではつまものといえば上勝町であり、最上等の品とされています。全国に出荷され、地方の町も多く山間部の旅館からも注文が来るといいます。
その立役者が今回紹介するYさんです。1979年に農協の指導員として上勝町に赴任しました。当時の農協は赤字で町にはたいした産物もなく、わずかに温州ミカンにすだち、ゆずといった柑橘類程度の山里でした。
ところが81年冬、マイナス13度という大寒波が襲来し町の柑橘類は全滅。農家は切羽詰まった状態に追い込まれました。そこでYさんは、何か出荷できるものはないかと考え、農家の家庭菜園の野菜を市場に出荷することを思いつきます。
自家消費用の余りものだから一軒当たりは少量だが、多くの農家から集めれば何とかなる。そこで農協の仕事が終了後に自家用トラックで運びます。朝一番のセリに間に合わせるためです。睡眠は車の中です。
ホウレンソウ、ワケギ、キウイフルーツなど当たる作物も出始め、新規出荷作物の開拓は軌道に乗り、さらなる多品目化を進めるため、Yさんは全国を回って売れる作物を探していました。
それに出会ったのは、大坂の夜の町でした。
モミジの葉っぱと料亭通い
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料理そのものよりも、飾りにすぎないつまものに関心が集まっている。モミジの葉など、山にはいくらでもある。しかも軽くて高齢化の進む農家に向いている。もってこいの産物になるのではないか…。
Yさんは早速、つまものに関する情報を集め出荷を開始しました。ブランド名は「彩(いろどり)」。しかし、画期的な商品アイディアではあったが、道程はそう簡単ではありませんでした。
まず、農家が出荷に応じない。つまものという商品があることを理解できないからです。それでも無理して出荷してみると、値段は木の葉を詰め込んだパックが、何と5円、10円にしかならず、まったく売れない。当時は何が悪いのか分からず、そこでYさんが始めたのが料亭通い。もちろん自費。つまものが使われる現場で学ぶことからスタートしたのです。
料亭通いは一年半程。その間につまものの使い方や意味、季節ごとにどんなつまものが求められるかを学びました。料亭の人や市場関係者からもアドバイスをもらいます。それに合わせて出荷品目や出荷方法を変えていくと、やがて価格も上昇。そうなれば出荷する農家も増え、競い合えばより良いつまものが出せます。既成のつまもの以外の珍しい品目も自ら開発して出荷しました。
2001年度の売上げは2億5,000万円に達し、参加農家も200世帯を超えました。
山にあるものを全て商品に
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「山にあるものを全部商品にしようと思っているんです。これまで価値を認めなかったものが、実は宝物だと気がついたわけです。自分のまわりのもの全部が、金に見えると農家の人も言っていますよ」
こうして、上勝町のつまもの産業はYさんのアイディアと研究、営業努力で成功しました。しかし、それだけで軌道に乗ったかどうか…。上勝町は大量生産ではなく、多品目を少量ずつ扱っています。それをいかにして達成したか。少量多品目のうえ季節性が強い産物だけに、集荷も出荷も非常に難しい。漫然と市場に出荷していたら、価格が下落したり大量に売れ残る場合もあります。
Yさんは、FAXでの情報を発信し始めました。>>