キッチンに立てばすべてが把握できる
らせん階段を上がって2階に行くと、そこは大きな吹き抜けのある3階との一体空間になっています。エレベーター&らせん階段をはさんで、道路に面した東側がキッチンとリビング、西側には仏壇のある祈りの場とおかあさんの居室があります。
リビングの先には柿の木を愛でるための張り出しテラスがあり、そこは住宅密集地にあって小さいながらも開かれた場所になっています。一家をずっと見守ってきた柿の木には、このテラスからいつでも触れることができます。
配置的には、キッチンがまさにこの家のへそともいえる印象で、ここに立つと家全体が一目で把握できるようになっています。外に目を向ければそこには見なれた柿の木と陽光の射すテラスが、室内に目を向ければおかあさんの部屋や仏間、見上げれば3階の娘の居室が見える。料理をしながら家全体の様子がわかるというのは、やはり女性の住まい手を意識してのことでしょう。
さらにこのキッチンの上には明るいトップライトが……。そうそう、トップライトは祈りの場(仏間)の上にもあり、このあたりにも建築家ならではの配慮が感じられました。
さらに特筆すべきは、この空間にある開口部という開口部が、採光と通風のための考え抜かれた配置になっているということ。
「隣家の壁に反射した光を取り込む窓、風の通る方位に開けた通風のための窓、前面道路の気配を感じられる窓、気に入った景色を眺められる窓、周囲からの目線を避けた位置の明かり取りの窓などをつくりました。あれ、こんなところにも窓がという場所にあるのはそのためです。これらの窓の位置の必然性は、やはり長年この地で住まわれてきた建て主さんだからこそわかることですね。そうした建て主さんの意見や要望はおおいに設計に生かされています。
このほか、もっとも日当たりのいい3階の居室とバスルームから入ってくる陽光を、キッチン上の傾斜天井の吹き抜けを通して2階まで届くようにするなどの工夫もしました。以前にくらべて格段に明るく、風通しのよい家になったと思います」(桐山さん)
建築家と建て主とがうまくコラボレーション
まるで大黒柱のようにも見えるエレベーターシャフトの横に設えられたらせん階段を上ると、そこは大きなロフトのような3階。娘さんの居室と南に大きく開いたガラス張りのバスルームがあります。北側が吹き抜けになっていて部屋がないぶん、きっちり独立したプライベートな空間という印象があります。そして、十分な採光のあるこの部屋をさらに明るく際だたせているのがこの家全体をおおう内壁の白。この白さへのこだわりも、建て主さんからの強い要望のひとつだったとか。
「同じ白でも、石膏ボード下地の白、コンクリート肌の上に塗った白、障子の白、陰影のある白などいろいろな白を使うことで、少しずつ違いを感じられるようにしました。これらが床の無垢の木のぬくもりをさらに強調する結果となりました」(桐山さん)
たしかに、同じ白でもところどころに陰影が微妙に感じられ、それがこの家に豊かな表情をつくりだしているようです。
また桐山さんは、一連なりの大きな一室ともいえるこの家において、吹き抜けによる上下階の室温環境の偏りを解消するべく、1階と3階の間をダクトで結び、循環ファンを設けるなどの工夫もされたそうです。おかあさんの今後を見越してエレベーターの設置を決められたこととも考え合わせると、こうした配慮も非常に大切なことですよね。建て主の要望やイメージを大切にしながらそれに一工夫を加え、より快適で完成度の高いものに仕上げていく。そうした意味で、この家は建築家と建て主とのコラボレーションがうまく連動した好例といえそうです。
■設 計 :桐山和広/桐山和広建築設計事務所
■構造設計:大塚真吾/大塚建築構造設計室
■施 工 :株式会社スリーエフ
●構 造 :コンクリート造+鉄骨造、3階建て
●建築面積:60.93m2
●延床面積:128.59m2