2階に上がると、階段部をはさむ形でキッチンとリビングが振り分けて配置されています。1階もそうでしたが、屋内テラス(1階ではエントランスホール)に面した部分はすべて開口部ですから、思いのほか明るい。内部でありながら、かなりの開放感があります。リビングは何もないシンプルな空間ですが、どんな家具を置いてどんな暮らし方をしようか、幅広い選択肢を提供するような仕掛けになっています。

4つの空間が同時に見える写真、階段がオブジェのようだ

縁側と床の間の関係がここにはある

「屋内テラスは、大きな縁側という発想なんですよ」と納谷学さん。
なるほど、テラスが外と接する縁側なら、リビングは障子越しの床の間のモダン建築的解釈ということでしょうか。ならばここは床に座ったり寝ころんだりしながら過ごすのがいい。私なら…大きな藺草の敷物などを敷いて、ゴロゴロして暮らしたい! 外からの光は不透明なアクリルを通して入ってくるためいつも柔らかく、寒さの身にしみる日もザンザン降りの雨の日も、ここなら全然大丈夫。じつに安定した快適生活が確保されているように思います。

キッチンから西側のダイニングを望む

屋上テラスがこの家の本当の「開口部」

 
開口部はすべて開け放つことができる、バスルームとリビングがひとつながりに

最近の住宅は、どちらかといえば外に向けて開き、環境をできるだけ取り込もうとするものが多いように思うのですが、ここではその逆を行く発想を見ました。しかしだからといって、通風や採光が無視されているわけではない。エントランスホールにもテラスにもいくつかの開閉窓が設けられ、多摩川からの川風の通り道がつくられています。

しまっておくのではなく、見せてしまうためのお風呂?

屋内テラスの道路側は、やはり全開放できるバスルーム。寝室からはちょっと遠いですが、ここはテラスとはいえすべて室内ですからプライバシーはばっちり確保されていますし、空間移動による温度差もない。裸でぶらぶらしてたって、誰一人文句を言う人はいません。

天使が舞い降りてきそうな空が見える屋上への階段

そして、最後は屋内テラスからさらに上がって屋上に出ることができます。残念ながらオープンハウス時には、まだそこへの立ち入りはできませんでしたが、屋上テラスはこの家で唯一、外の環境と直接触れあえる場所。そこからは多摩川の風景も一部望めるそうです。ある意味、そこがこの家の本当の「開口部」なのかもしれませんね。この住宅地にふさわしいかどうかは別にして、大きな客船の船室のように“守り”に徹したこの家は、そのまま自然環境の厳しい地域に移しても使える新発想の家でした。

設計監理  :納谷学+納谷新/納谷建築設計事務所
構造設計  :かい構造設計
施工    :高橋建設株式会社

建築面積  :60.50m2(18.30坪)
延床面積  :121.00m2(36.60坪)
構造    :鉄骨造、地上2階建て

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