屈折した天井が空間の伸び上がりを演出
キッチンの先には、何もない空間が広がっています。ここはあえていえばダイニング+リビングなのですが、用途は自由。ただただ広い空間です。白で統一され、壁と一帯になった天井が途中で屈折しているためか、不思議な広がりが感じられます。また、東側の壁に付けられた収納部の上に間接照明が使われていて、その反射光なども空間の広がりを印象づけるのに一役買っているようです。ただ、この壁は大きなスクリーンにもなりますから、何もない状態に戻したいという建て主の要望があれば応えるということでしょう。
大きく取った道路側の開口部はひとつだけ、あとは帯状にいくつか小窓が開けられています。しかしながら明るさも通風も十分で申し分ありません。都心にあってこの広さ、開放感は得がたいものといえるでしょう。
さらにこの上には隣の公園の大樹を望める屋上デッキが付けられるそうです。テレビドラマなどを見ると、多くの場合、リビングがソファーや家具に占拠されていて、日本の家はほんとにせせこましいな~と思わせられますが、この空間にはそんな既成の生活空間というものへのアンチテーゼすら感じます。
納谷兄弟の次なる挑戦が楽しみ
さて、階下つまり1階に降りていくと、そこには水回りと、階段を挟む形で3つの小部屋が並んでいます。こちらは上階のパブリックな空間に対し、プライベートな安らぎと眠りの空間ということですね。いったん上がってから下がる形になるので、感覚的になんだか地下にいるかのよう。船でいえば、水に沈んだ部分というのでしょうか……。それだけに外部からはしっかり守られているという安心感があります。いまの都心は、10年前にくらべてずいぶん物騒になりましたから、こうした配慮はこれからの住宅に「必要とされる」要素かもしれません。
欲をいえば、3つの小部屋にそれぞれ違った「個性」があってもよかったのではと思うのですが、このあたりはやはり建て売りを意識したときの限界でしょうか。実在する家族なら、それぞれに趣味・嗜好があり、「こうしたい」というニーズがあって、それがインテリアにも反映されるわけですが、ここにはそうした生きた人間の主張がない。いや、建て売りにはそうしたものがあってはならないということですね。ともあれ、納谷兄弟の新しい挑戦、次なる計画が楽しみなことです。
■設計監理:納谷学+納谷新/納谷建築設計事務所
■構 造 :木造在来工法、一部鉄骨・RC造、地上2階建て
●延床面積:120.91m2(36.6坪)
1階面積:50.88m2(15.4坪)
2階面積:70.03m2(21.2坪)
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