なによりも犬との生活を最優先に
杉並の善福寺公園から歩いてすぐという閑静な住宅地に筒井紀博さん(筒井紀博空間工房)が建てた「5柴ハウス」はあります。
筒井さんは、猫と住む『華門楽家』でもご紹介した建築家ですが、建て主の尾崎さん夫婦は、この記事を読まれて筒井さんに設計を依頼されたのだとか。とにかく、動物のことをよく理解し、愛犬たちとの生活を最優先して建築を考えてくれる人と一緒になって家づくりに取り組みたかったのだそうです。
その意味では、筒井さんがかつて実家で柴犬を飼われていたことも大きなアドバンテージになったようです。それにしても「なによりも犬との生活を最優先」とは、じつに明快なテーマといえますよね。
5柴専用の通路とドッグランを備える
外観は、ルーフテラスを持つガレージが先にあり、その横に母家が隣接するという2棟の構成。ルーフテラスは5柴たちが外と接触することのできる最前線の場所ということで、そこには木製の縦ルーバーが巡らされ、外部への音の漏れを最小限にとどめる工夫がなされていました。母家にあたる居住棟への門扉を入ると、けっこう広めの芝生の庭があり、それを右手に見ながら玄関へのアプローチが続きます。そしてこのアプローチの途中には、犬たちの足洗い場があり、ガレージの屋上へと繋がる階段と、裏庭に抜ける通路があります。
ところがこの通路、なかなか大人が行き来できる広さではない。なんでもこれは5柴専用の通路だそうで、ここを通って犬たちは家の周囲をぐるりと一周できるのだそうです。家の回りがそのままドッグランになるということですね。バスルームに面した裏庭では、5柴の1頭が芝生の上での~んびりとくつろいでいました。
家づくりに必要な建て主と建築家の方向性の一致
さて玄関を入ると、そこはいきなりの大空間。正面にダイニングキッチン、その左手に畳敷きの客間、右手には庭先に設けられたウッドテラスまで一続きになった大リビングが広がっています。 リビングの上は2層の吹き抜けになっており、じつに気持ちがいいー! 犬たちはこの大空間の思い思いの場所で好きに暮らしているという感じです。
ちなみに5柴たちは3世代にわたる親族なのですが、血が繋がってはいても性格は全然違う。しかしながら、どの子もたちまちこの家にすっかり馴染んで楽しくやっているということは、やはりこの家が「まさに巨大な犬舎をめざして設計した」(筒井さん)というコンセプトの明確さから来るものなのでしょう。それだけこの空間が開放感にあふれているということです。
家づくりには、絶対的に必要な建て主と建築家の方向性の一致。それが柴犬への愛情だったということですね。筒井さんが5柴ハウスを、自分のブログで「+400」と称しているのは、フロアーレベル+40センチという意味で、これはすべてを犬の視線で考えたことを示しているのだそうです。
人と犬とが共有するバスルームは、畳敷きの客間の左手奥にあり、ここには裏庭から犬たちが直接入れるよう、専用口が設けられていました。