妻から夫へ、結婚第1夜に贈った英詩『花嫁のべール』
結婚についての詩は数多くありますが、ヴェールに題材を取った詩はそれほど多くはないでしょう。これからご紹介する詩はそのものズバリ『花嫁のベール/The Bridal Veil』です。
この詩は『小公子』の翻訳者として知られる若松賎子(わかまつしずこ)が、1889(明治25)年に結婚するにあたって、夫に贈ったものです。長年、彼女の創作と思われていましたが、アメリカの詩人アリス・ケアリーの作であることが、近年の研究で明らかになっています。
「われら結婚せりとひとは云う、また君はわれを得たりと思う/然らば、この白きベールを取りてとくとわれを見給え、」という印象的な言葉で始まる詩です。3連にわたっていますが、私が一番好きな2連目をご紹介しておきます。
われらは結婚せり、おゝ願わくは われらの愛の冷めぬことを
われにたゝめる翼あり、ベールの下にかくされて、
光のごとくさとくして、きみにひろげる力あり
その飛ぶ時は速くして、君は追いつくことを得ず
またいかに捕らえんとしても、しばらんとしても
影の如く、夢の如く、君の手より抜け出づる力をわれは持つ
(乗杉タツ訳詩)
ちょっぴり硬い文語調の訳詩ですが、リズムは心地よく、きっぱりとした詩の内容も素敵なので、人前式の時などに朗読しても、印象的なのではないでしょうか。
ちなみに、若松賎子は25歳で結婚しましたが、体はあまり丈夫ではなく、肺結核を患っていました。3人の子を為しましたが、4人目の子どもを妊娠中に、31際の若さで心臓マヒによりその生涯を閉じています。1896(明治29)年2月のことでした。樋口一葉とも交流があり、賎子が死んだ時に一葉は「とはばやと思ひしことは空しくて今日のなげきに逢わんとやみし」という歌を捧げています。その一葉も同年の11月に亡くなりました。
最後はヴェールの由来や種類について紹介します