そこで今回は、「短期投資はオススメできない」というコンセプトにそって、短期投資よりも長期投資にフォーカスした考えをお持ちの3人のプロにお話を伺いました。その3人というのが、コモンズ投信の渋澤健さん、セゾン投信の中野晴啓さん、ひふみ投信のレオス・キャピタルワークス藤野英人さんです。
この3人は、長期投資の世界に新しい風を吹き込もうと結束を固めた戦友といっても過言ではありません。今後の長期投資界に革命を起こしてくれるのではないかと思って、今回取材をお願いしました。そんな3人に、まずは多くの人がけっこう気にしている、短期、中期、長期の境目について話を聞いてみました。
短期・中期・長期、その境はどこにある?
「これといってちゃんとした定義がないのが正直なところです」と答えてくれたのが、藤野さん。この考えには中野さんや渋澤さんも賛成しているのは言うまでもありません。レオス・キャピタルワークスの藤野さん。にこやかな雰囲気の中にも、鋭さが見え隠れする。
定義がないことの理由としては、時間の感覚が人によって違うことが挙げられます。たとえば、1日以内のトレードであるデイトレードや数秒の間に売買をするスキャルピングを短期と考える人もいますし、場合によっては1ヶ月、半年を短期だと思っている人もいるのは事実。つまり幅がとても広いのです。
ただし、あえて定義をするのであれば、3ヶ月から半年が短期、半年~3年が中期、3年以上を長期と考えるのが業界のスタンダードになるそうです。
あるいは、「買ったときから少しでも株価が上がったときに売ってしまうスイングトレードも中期に入るのではないか?」というのが、中野さんの考え方。
セゾン投信の中野さん。「5,000円であなたも積立投信デビュー! 」や「なぜ、あのファンドにはお金が集まるのか」、「投資の先にあるものは何なのか?」でも登場いただきました!
この値上がり幅は、デイトレードやスキャルピングのように数円単位ということではなくて、たとえば株価が300円であれば320円~330円というように幅が広くなるのが一般的です。
この考え方は、時間軸というよりは値上がり幅をベースにしているのですが、仮に時間軸で考えるのであれば、1週間~1ヶ月くらいがスイングという位置づけになるのかもしれません。
もちろんこの時間軸については個々人によってとても大きな違いがあることが前提です。デイトレード中心であれば、1週間株を保有することが中期になりますし、長期投資を前提にしているのであれば、さきほどの藤野さんの話のように半年~3年というイメージになってきます。
短期トレーダーと長期投資家の違いは何?
気持の面で考えると、「いつも売ることを考えている人、言い方を変えるのであれば売るために買う人が短期・中期のトレーダーという位置づけ。それを越えた買い方ができる人が長期投資家になる」という見方をしたのは中野さん。長期投資家の根底にあるのは、売るために買うという概念ではなく、自分のお金を投資という形で経済に投入する、つまり世の中に働きに出すという概念なのです。
コモンズ投信の渋澤さん。運用のプロ中のプロ。
これが長期になると実に色々な情報が入ってくるので、1つの情報へのこだわりということではなくて、本源的な価値をベースにして見たときに、今の株価が安いのか高いのかということにフォーカスしてきます。つまり、短期の場合には価格しか見ないのですが、長期(場合によっては中期も)の場合には「価値」を見るようになってくるわけです。
長期投資家がどういう人なのかを考えたとき、「時間を味方にできる人が長期投資家になる」という意見もありました。藤野さんの考え方です。ただし、渋澤さんや中野さんも同意見。
結局長期投資というのは長い時間をかけることになるので、その時間を有効に使って成長、発展するモノやサービスにお金を投入できるかどうか。これが1つの判断基準となります。
短期投資のデメリット
短期投資を考えると、当然ながらプラスの面とマイナスの面があります。プラスの面を挙げるとすると、「資金の回転率が高いのでお金が増える波に乗ることができれば、驚くほどのスピードで増やすことができる」ということ。これが一番の強みではあるのですが、こうなるには相場の状態やトレーダーのテクニック、相場を読み込む力、そして運など、多くの要素がそろわないと難しいと私は思っています。なので、投資初心者が短期でトレードをするのは、正直言ってオススメできません。むしろ、デメリットのほうが多いような印象を受けているくらい。たとえば、どんなデメリットがあるのかというと、短期のトレードをしてしまうと、それしかできなくなるということです。つまり、1日中相場に張り付いて株価の動きを見ているので、他にやるべきことがあってもなかなかできなくなってしまうのです。「そこに大きな課題があるのではないか?」と問題提起したのが、渋澤さんでした。
それに加えて、中野さんはこう言います。
「好きな人にしかできないことだと思いますね」
つまり、他のどんなことよりもトレードが好きでないと続けることは難しいのです。なぜならば、犠牲にすることがあまりにも多いから。
これに関して、リアルな話を聞くこともできました。特に短期のトレーダーは常にマーケットの動きを見ている必要があるのですが、以前渋澤さんのボスだった大手米ヘッジファンドの創業者は、24時間マーケットの動きを気にしていたそうです。もちろん1つの市場ではなくて世界の様々なマーケットを見ます。そして1つの情報があったときに、その裏づけを取るために膨大なリサーチをしたそうです。
つまり、マーケットと経済は頭の中で常につながっている必要があるし、それをベースにして常に考えている必要がある。だから、好きでないとできないのではないか、というのが渋澤さんの意見です。
ただ、誤解してほしくないのは、自分の人生において1日8時間マーケットに張り付いている必要がある中で、そこで勝てる人もいるは事実ですし、渋澤さん、中野さん、藤野さんは短期投資を否定しているわけではないということです。
そもそも、彼らが提唱する長期投資であれば儲けることができるのか?というと、そこに絶対的なものがあるわけではないのです。なぜならば、人それぞれが勝ちパターンを持っていて、それは短期のトレードなのかもしれないし、あるいは長期投資なのかもしれないからです。要するに、たくさんの手法がある中で、この3人は短期のトレードを推奨していないというだけ。
「やらない」という選択肢を持とう
また、長期的に見たときに、株価が上がるものを見つける方が易しいと思っているのも事実。マーケットの瞬間的なゆがみやひずみを探し出すのは難しく、何よりも未来は予測不可能ということが前提にあります。しかしながら、それができる人もいて、そういう人はマーケットの動きを読むのが好きなのだと思います。
「世界的な短期トレーダーは存在するけれども、残念ながらそういう人はごく一部で、一般的な人がそれを目指すのもに向かってしまってもなかなか難しいのではないか?」というのが3人の意見でした。だから、ここで大切なのは、自分が普通の人だと思ったら、やらないという選択肢を作り出し、それを選ぶということです。
結局、どういう投資をするのかは個人の自由なのですが、投資法の裏にはどんな強み、弱みがあるのかを把握する必要はあります。今回は長期投資のプロの視点で見てきましたが、今度は自分で考えてみる。そういう努力が求められているような気がします。