自分がまったく話せない、あるいはまだ流暢にしゃべれない言語で話す家族の中に入っていくのは、ある種の緊張感がありますよね。パートナーの家族に会うのはうれしいのだけど、同時にちょっぴり憂鬱にもなる複雑な気持ち。しかし、私の友人で、それを見事にクリアしている人たちがいます。彼女たちの対処法をご紹介しましょう。

気持ちの切り替えで対処

ご主人は中国系アメリカ人。ご家族の結束が固く、週に1度は必ず家族全員が実家に集まり、食事をするのだそうです。ところが食卓でとびかう言語は中国語。ご主人はご兄弟が多いのですが、結婚相手はみな中国系の方で、それぞれの家庭でも中国語をキープしているため、甥や姪も中国語で話します。それもこれも、この時間をとっても楽しみにしているおじいちゃん・おばあちゃん(つまりご主人のご両親)のため。

ところがAさんはまったく中国語が話せません。なので最初の頃は、この時間はつらくてつらくて仕方がなかったそうです。それに、実家に戻ると、ご主人は家族中心になってしまい、Aさんに気を遣わなくなるため、いちいち通訳や会話の橋渡しもしてくれず、これがしばしばケンカの種になることも……。

中国語の勉強も始めてはみましたが、フルタイムで仕事をしているAさんにとっては、思うように勉強に集中する時間がとれず、いつしかテストは本棚の片隅に……。週1回のこの数時間は、Aさんにとって、この世で最もつらい時間となっていたのです。

しかし、憂鬱な数カ月を過ごした後、考えました。いずれにしても、この時間は毎週必ずやってくる。だったら気持ちを切り替えて、楽しく過ごすようにしよう、と。それからは、ひたすら食べることに集中。みんなの会話がはずんでいても気にしない。家族には家族の話があるのだと思うことにしました。

そうするとお料理の味がよく分かる。この味付け、おいしい! この素材は何だろう? そんなことから、お義母さんやお義姉さんと話す話題が見つかるようになったそうです。個別に話すときは英語でいいので、逆に以前より話すようになったとか。もちろん、ご主人とのケンカもなくなり、毎週楽しみに実家に出かけているそうです。

心は伝わると信じて

カナダに住むBさんはご主人が東ヨーロッパ出身。子供たちは英語と日本語で育てており、Bさんともども、ご主人の母国語は話せません。
そのBさんの家に、リタイアしたご主人のご両親が来て、数ヵ月滞在することになりました。ご両親は英語がまったく話せません。ご主人が仕事に出てしまった後は、言葉が通じない者同士が残されることになるわけですが……。

どうしているのだろうと密かに心配していた私は、彼女の家に遊びにいって、その振る舞いに感心してしまいました。

Bさんは通じようが通じまいが、英語でどんどんご両親に話しかけます。その話し方は丁寧で、ご両親への尊敬が込められており、身振り手振りもふんだんに含まれています。それで最低限のことは何とか通じているのです。どうしても正確に伝える必要がある事柄については、ご主人が帰宅してから通訳してもらいます。

ご両親は生まれ育った文化の背景から、あまり喜怒哀楽などの感情を外に出さないのだそうです。景色のきれいな所へ観光に連れて行ったり、おいしいレストランに行ったりしても、果たして今喜んでいるのか、楽しんでくれているのか、まったく分からなくて、時には張り合いがないと感じることも。それで伝わるものがきっとあるはずだからとBさんは、とにかくいつも明るく優しく話しかけるようにしているそうです。

ご両親が子供たちを見ていてくれる時間が増え、その点はラクでしたが、カナダでのびのび育った孫たちは祖国の子供たちとまったく違うキャラクターで、しかも自分たちとは言葉が通じず話せないわけですから、ご両親は少なからずショックを受けていたようです。しかしBさんは、それは仕方のないことと毅然としていました。そこには、ご主人とふたりで話し合って決めた教育方針と子供たちの未来図があったからなのです。

つまり、ご両親が寂しいからといって、もう1つの言語も習わせようとすると、子供たちは混乱して1つの言語さえ確実に習得できないかもしれないという懸念。そして、将来カナダで生きていく子供たちのアイデンティティの問題……。それらはもうふたりの間で何度か話し合われ、方向性がしっかり固まっていました。このように夫婦のポリシーと信頼関係がしっかり築かれていれば、多少のことでは迷いは生じないのですね。

もちろん、ご両親には申し訳ないという気持ちはありますから、それがBさんの優しく敬意をもって接するという態度に出ているわけです。それに、このケースの場合、Bさんはホスト側。だから滞在中は家でご両親に居づらい思いをさせたくないし、息子が住んでいる国をよく見て楽しんでいってほしいという気持ちがあるのです。最終的には言葉より心なのかもしれませんね。