日本が大好きでついに住み着いてしまったブラジル人店主と国際結婚した奥さんは「でもやっぱり彼は外国人」と言います。
“分かり合えなくて当たり前”ということが常に前提としてあるから、相手を知るためには、とにかく思っていることを言葉にしなければなりません。だから今までたくさん話をしてきたし、今でもそうしているのだそう。話し合うことで相手を分かってきたことのほうが多いような気がする、とも話していました。
それにはさくらも同意します。彼女のお父さんは日系だけどアメリカ人、お母さんは純粋な日本人だから、国籍で言っても国際結婚だし、育った文化の背景を考えると完全に異文化間結婚なのです(たとえお父さんが日本語と日本文化を厳しく守る家庭に育ったとしても)。だから2人はいろいろなことをいつも話し合っていたそうです。
さらに料理屋の奥さんは続けます。
「その点、日本人のカップルは“分かり合えて当然”ってところからスタートしているように思うの。だから言葉を省こう省こうとしているんじゃないかな」
なるほどねえ。たしかにそうかもしれません。
特に妻に対しては、夫が何も言わなくても、顔色や様子を見て夫の健康状態から心理状態まで察することができる人が“いい奥さん”と世間では思われているようなフシがあります。よくご主人の病気が発覚したときに「一緒にいて奥さんは何で気づかなかったのだろう?」なんて言われたりしますからねえ。よっぽど顔色が悪いとか食欲がなくてゲンナリしているならともかく、それほどでもない状態だったら、夫が何も言わないのに先回りしてすべて気づけというのも、なかなか無理な要求ではないかと思いますが‥‥
ここでさくらの同僚の先生(保健体育を指導する男性)が茶々を入れます。
「以心伝心。『俺の目を見ろ、何にも言うな』ってね」
そうそう、このような言い回しもよく聞きますよね。“男は黙って○○ビール”なんていうCMもその昔ありましたっけ。夫の側としては、いちいち言わなくても妻がすべて覚ってくれたら、こんなにラクなことはありませんよね。
ところでこの「以心伝心」、もともとは禅宗からきている言葉ですが、日本と欧米の文化の違いを語るとき、よく使われるキーワードなんです。