去る12月6日、バンクーバーで「国際結婚ワークショップ」という催しが行なわれました。これは国際結婚カップルが多い当市で、異文化適応に悩む妻や夫のために、専門家や体験者を招いて話をうかがい、個々の問題を普遍化して対応策を考えていこうという内容で、すでに足かけ5年・24回目を迎えています。
毎回、日本からこのワークショップに参加してくださっている精神科のN先生が、この時たいへん心に残るお話をしてくださったので、ここでみなさんにもご紹介したいと思います。
N先生は、国際結婚ではありませんが、ある対照的な2組の熟年夫婦の話をされました。
どちらもご主人が脳卒中で入院。回復しても、言語や四肢の運動機能に障害が残るであろうという状態でした。1人の奥さんは、家の中の準備(手すりの設置など)がまだ整わないことを理由に、なるべく長く入院させておいてほしいと、退院を延ばし延ばしにしていました。一方、もう1人の奥さんは、家で自分ができるだけのことをしてあげたいので、症状が良くなったら1日も早く退院させてください、と言うのです。
この違いはいったいどこから来るのでしょうか?
実は前者のご主人は、以前からあまり奥さんの話をよく聞いてあげたりする人ではなかったらしく、ご主人は気づいていなかったようですが、奥さんのほうでは長年のウップンが溜まりに溜まっていたようなのです。
これに対して、後者のご夫婦は、いわゆる普通の穏やかな熟年カップルだったといいます。
N先生は、夏の間---つまり2人とも健康で生活が順調な時---の夫婦関係の如何が、ひとたび冬を迎えた時の夫婦の状況を左右してしまうのではないでしょうか、と話されました。
冬の状態とは、どちらかが健康を損ねたり、経済的に厳しい状況におちいったり、思いがけなく人生の大きな局面に立ち向かうことになったりした時のことをいうのだと思います。
前者のご主人は、お互い健康で経済的にも問題なく過ごしていた時期には、奥さんがそのような不満を持っていたとは、夢にも思っていなかったかもしれません。そして入院しベッドに寝ている今、奥さんが病院側に退院をやんわり拒否しているとは、やはり夢にも思っていないかも…。
さらにN先生は、日頃から、夫あるいは妻の「掛け替えのなさ」をどれだけ認識しているかが、大切な要素であることも指摘されました。
相手が「掛け替えのない人」であると思えれば、そこからいとおしさや大切に思う気持ち、相手を尊重する敬愛の念がわいてきます。そこには夏も冬もないのです。どんな状況であろうと、相手の「掛け替えのなさ」は変わらないのですから。
「掛け替えのなさ」、いい言葉だなあと思いました。