建物の記憶を残した内装。壁面の大きな鏡は床屋さん時代のなごり。 |
床屋だった建物を改装して
築30~40年が経過した店舗は、かつて床屋さんとして使われていた木造建築。大屋さんが大正時代から代々、床屋を営んできたのだそうです。
天井の梁も、鉄製の補強材もみな元の建物にあったもの。壁面に残る大きな鏡は床屋さんの遺産で、高い天井から下がる灯りや、棚にずらりと並ぶスパイス瓶やグラスがこの鏡に反射し、美しい効果をもたらしています。
数々の心惹かれるものたち。壁に立てかけられた鉄製のはしごは、なんと、廃業したご近所の銭湯の煙突に取り付けられていたもの。かつてはこのはしごが、空から吉祥寺の街を見下ろしていたのですね。
さりげなく飾られているワイヤーアートは、ニールさんの作品。じつは、サジロカフェで評判のナンを入れて供するカゴや、文字盤にネパールの数字がおどる時計も、ニールさんが作ったのですって! ふと時間が空いたとき、店内の古い扇風機や、花瓶の花を眺めながら、何気なくその輪郭をワイヤーで器用にかたどったりするのだそうです。(写真下)
「ニールはネワール族の出身で、ネワール族の人々は木彫技術や金属工芸などのアートに長けていることで知られているんですよ」
ニールさんが作るワイヤーアートは、ネワール族の人々が持つ才能の表れかもしれません。 |
そんなふうに、ネパールをしのばせるものは、言われなければ気がつかないほどさりげなく店内に息づいています。たとえば銅製の小さなランプシェードは、ネパールでお祭りのお菓子づくりに使われる道具の転用。シヴァカフェのガラス扉の取っ手も銅製ですが、ネパールでは銅は玄関まわりに飾ると縁起のよい素材とされているのだそう。
また、壁の小さな木の棚に重ねられている豆皿のようなものは、ネパールのお祭りのときに無数に並ぶ灯明。この豆皿に油を入れ、灯心をひたしてあかりをともすのだそうです。
灯明もお菓子づくりの道具も、私たちの目にはなんとも心そそるものに写りますが、現地の人々にとっては日常のありふれた雑器。そんなものを、このネパール人と日本人の二人組がなぜ嬉しそうに買っていくのか、首をひねっていたことでしょう。
古いはしごは、取り壊された銭湯の煙突に付属していたもの。 |
サジロカフェは土日の昼食どきともなると行列ができますが、シヴァカフェはまだ知られていないせいで、のんびりした時間が流れています。特に午後3時から夜にかけては、波板ガラスに揺れる緑と淡い光を眺めながら、静かにくつろいで過ごすのに最適。取材中にも、本を片手にご年配の男性がひとりで訪れていました。