古い映画館の上にカフェがある
名画座の上に、個人がたったひとりで改装したカフェがある……と聞けば、もうそれだけで興味と共感を抱くには充分。そんな類いまれなロケーションを選択する作り手の眼力がうかがえるではありませんか。
懐かしい気配の漂う「セントラル劇場」。古びたビルの4階の一室に、dico.appartement(ディコ アパルトマン)はありました。薄暗がりの廊下と階段。粒子の粗いモノクロームの映画のシーンが無数にフラッシュバックしてくるような、心をとらえるアプローチ。メロウなグリーンに塗られた壁に、乳白色の扉。「401」の数字。
美しい真鍮のノブに手をかけ、扉を開けてみれば、期待を裏切らない空間が待ち受けていました。
ロケーションの魅力を存分に活かし、ディテールにも優れたセンスを発揮してdico.を完成させたオーナーは松本広作さん。長崎・島原で生まれ育ち、東京でグラフィックデザイナーとして活躍後、長崎に戻ってカフェをオープンしました。
最初のカフェは2003年に繁華街から少し離れた場所に誕生した「dico.」。店名はディクショナリーの略語で、古本+CDショップとしての機能や、家具、雑貨、ギャラリーなど、「AからZまで」の多彩な要素を持っていたことから命名。
dico.を3年間続けたあと、2006年、この場所にdico.appartementをオープン。事務所だった物件を趣のあるアパルトマンの一室のような空間へと、たったひとりで時間をかけて改装していった様子は、サイトの「making of appartement」で知ることができます。
(これは本当にすばらしい記録なので、興味を持たれた方は、まず手もとにコーヒーなど用意してから、一冊の本を読むようにじっくりとページをめくって楽しんでくださいね)