豆には耳があるから、呼びかける
コーヒー豆には耳が付いているんです、と吉見さん。
「耳が付いているけれど、コーヒー豆は耳が遠い(笑) だからバリスタやロースターの声が小さいと、豆には聞こえません。バリスタは声が大きくなければいけないんです」
コーヒー豆は素直だから、聞こえるように呼びかければ、ちゃんと応えてくれるのだと吉見さんは語ります。
そのために重要なのは、鮮明にイメージすること。吉見さんは焙煎をおこなう前に生豆の品質と鮮度を見極めて、作りたい味のイメージを頭のなかに作りあげ、焙煎データを見返してイメージと結果が一致する焙煎方法を選ぶのだそうです。
最高の一杯は、飲む人に伝わるもの
吉見さんがこれまでに飲んだ最高のコーヒーは、と訊ねたところ、ポール・バセット時代に自分が抽出したエスプレッソです、という答えが返ってきました。
「その日のエスプレッソは私の中では本当においしくて、気分よくお客さまにお出していたんです」
たまたまその日、ある老夫婦がお店を訪れてそのエスプレッソを飲み、次の日も再び来店しました。
「そしてそのおばあちゃんが、『今日も来たのは、うちのだんなが「昨日飲んだエスプレッソが夢にまで出てきた。夢の中で飲んでいる自分がすごく楽しそうだった。今日もあの店に行くぞ」と言うから』とおっしゃるんです」
老夫婦は東京に旅行に来ていて、あちこちを観光する計画だったのだけれど、それをすべてとりやめて、再び一杯のエスプレッソを飲むためにお店にやってきたのだそうです。
エスプレッソの味わいは、飲む人の気分しだいで変わってしまうもの。それでいて、おいしいエスプレッソはちゃんとお客さまに伝わるのですね。