3種類のネルドリップ味わいくらべ
ネルでドリップする濃厚なデミタス(700~800円)には、「小さなカップに満たされる濃縮されたエキスは、コクを感じ取る出汁(だし)文化を持つ日本人には、コーヒーを味わう最高の贅沢」という言葉が添えられて、なんと「あさつゆ」「たなごころ」「むさしの」という3種類が揃えられています。3つのデミタスはそれぞれ酸味・甘味・苦味のバランスが異なり、ずっしり重厚にするだけがネルドリップの特技ではない、とばかりに柔らかな甘さを楽しませる「あさつゆ」から、全身でコーヒーに浸りきることのできるすばらしい量感の「むさしの」まで、豊かなひろがり。いずれもコーヒー好きにはたまらない深い味わいを凝縮して、飲む者の五感に響かせます。
スイーツも長沼さんの手作り。酸味がおいしいコーヒーによく合う柔らかなレアチーズケーキ(400円)、苦味がおいしいコーヒーをひきたてるトリュフショコラ(300円)、そしてしっとりした噛み心地の奥からスパイシーな風味が伝わってくるジンジャーケーキ(300円)と、いずれもコーヒーとの相性をよく考えて作られています。
コーヒーもワインのように自然の影響を受ける農作物。その年その年の味わいや、日々変化する味を楽しんでいただければ、と長沼さん。
「コーヒーはいつも同じ味だという先入観を壊したいですね。作物ゆえ、できの良い年もあれば悪い年もある。悪い年にこそ手間ひまを惜しまないワイン造りの職人のように、
どんな時でも素材を最高に生かす焙煎や抽出を心がけたいと思います」
ねじまき雲を開店してから、よく北海道で過ごした幼年時代の匂いの記憶が蘇ってくると長沼さんは言います。山に入れば山の匂い、川に行けば川の気配が強く感じられ、それらに触れていた子ども時代の情景が匂いとともにふっと浮かんでくるのだそう。
窓辺にはイベントで使ったというガラス製の水出しコーヒーの器具が置かれていました。コーヒー豆の挽き方の細かさに何種類かのヴァリエーションを持たせ、コーヒー粉で地層をつくって水を落としていく方法は、山に生きる木の根の濾過作用にインスピレーションを得たのだとか。