コーヒー豆を焙煎する前後に、欠点豆を取り除くハンドピック作業は不可欠ですが、長沼さんは焙煎したコーヒー豆を挽く直前にも3回目の入念なハンドピックをして、わずかな不揃いも見逃しません。ペーパードリップ1杯に使うコーヒー豆の量は30g弱。一般的なコーヒー店のたっぷり2倍以上の量という贅沢さです。
ハンドピックを済ませ、粉を挽いたら、ドリップにとりかかる前にブロワーでチャフ(シルバースキン)をそっと吹き飛ばして渋みを取り除きます。1杯の注文を受けてから、コーヒー粉にお湯を注ぐ前に、すでにこれだけの作業があるのです。すべてはただ、「ああ、おいしかった…」という小さなため息のために。
※チャフってなに? 取り除いたほうがいい?については、 内田牧さんに東京カフェマニア上に書いていただいた SWEET COFFEE~おいしい珈琲の作り方講座のVol.5「珈琲豆を挽いたあとの、5秒間のコツ」をどうぞ。
「話しかけても平気ですよ」と長沼さん。
でも、ドリップする姿の端正さには、静かに息をのんでしまいます。
理想のコーヒーは楽しいコーヒー
ねじまき雲のメニューにはブレンド各種からストレートまで、コーヒー好きを魅了するコーヒーが並ぶかたわらで、コーヒーを飲み慣れない人でも気軽に楽しめるシグネチャードリンク(創作アレンジコーヒー)も豊富に揃えられています。
長沼さんの理想のコーヒーは「楽しいコーヒー」なのです。味の好みは十人十色だから、飲む人にコーヒーの難しさではなく楽しさを届けたい、それが彼の姿勢です。コーヒーを深く追究した人ほど、コーヒー初心者に対して寛容になる傾向があるのかもしれませんね。
楽しさを伝える手間を惜しまないのもねじまき雲の魅力のひとつ。「飲めばわかる」とばかりに説明の努力を放棄するのではなく、ひとつひとつのメニューを、どこかユーモラスな味わいのある言葉と明解なグラフで伝えてくれます。コーヒーの特徴を酸味・甘み・苦味の3つのグラフで表現する「味レベルグラフ」はとてもわかりやすいもの。どうぞ選ぶときの参考にしてください。
(左)友人のアーティストから贈られた“コーヒーの神”
頭部のネジを外すと、中からひと粒のコーヒー豆が…
テーブルワインのように気軽な「ビアンコ」
今までコーヒーは苦手と思ってきたけれど、この機会にチャレンジしてみたいという人には、ブレンド「ビアンコ」(600円)はいかがでしょう。このページには「濃い珈琲がダメで、苦いのもスッパイのも苦手。そんな奴は珈琲店に来るな!とは言いません。テーブルワインのような、気軽な珈琲があってもいいのではないでしょうか」という心優しい言葉が添えられています。
緑豊かな青梅丘陵のカケラを飲む「三毛猫」
また「三毛猫」(900円)と名づけられたまろやかなアレンジコーヒーは、有機抹茶、ミルク、きなこを加えたもの。「お店の前には青梅丘陵の稜線があります。その山のカケラを飲めたらと思ったのです」
(右)チャフを取りのぞくのに使われるブロワー