「ねじまき雲」なんて雲
ありません。
ねじまき時計のように巻かなければ
止まってしまうような刻の中、
珈琲の湯気と、焙煎の煙と、
つどう人々の温かな蒸気とで
生まれる
やさしい時間をと、おもうのです。
そのために、口べたな店主がつくった
小うるさい注意書きを
お守りいただけると幸いです。
(ねじまき雲のメニューに書かれた言葉)
これは2度目に訪れたときに撮った写真。
午後の乳白色の光のなかで。
注意書きには幾つかの項目があり、店内禁煙に始まって、大人数でのご来店はお避けください、大声は慎んでください…など、ちょっとばかり“注文の多い珈琲店”なのですが、それでいてさぞ気難しい店主なのかと思いきや、心優しくふんわりとあたたかいお人柄。
そしてこの夕方も、別の日の昼間に訪れたときも、お客さまはみな穏やかにリラックスしていて、この注意書きに引っかかってしまいそうな人は誰ひとりいなかったのでした。
ドリップする所作の美しさ
ねじまき雲の店主は、お客さまに親しみをこめて「ネジくん」と呼ばれている長沼慎吾さん。カウンターの奥には焙煎機が鎮座しています。
長沼さんがコーノ式のペーパードリップとネルドリップを使い分け、一杯ずつ細心の注意を払ってコーヒーをドリップしていく所作は端正なもの。真剣に集中しつつもよけいな力が抜けていて、その所作を見ているだけで心が潤うようです。