伝統的な和小物をアクセントに
洋服や靴をあつらえにICHOを訪れるお客さまは、たとえば“今秋の服装計画”や、“旅行に着ていくもの”といったプランを抱いて、デザイナーと1時間でも2時間でもゆっくりと時間をかけて打ち合わせをするそう。この時間も楽しみのひとつなのでしょう。
カフェスペースはそんなお客さまの休憩スペースとして発想され、洋でありながらもデザイナー鴨脚暢氏のバックグラウンドである京都の和の伝統を感じさせる空間に。
カウンターに並ぶ椅子はカッシーナ。フランク・ロイド・ライトのタリアセンが仄かな光を投げかける一角には、飛騨高山のキタニが手がけるフィン・ユールやラーセンなどデンマークの名作椅子が並びます。
この落ち着いた空間に小さいながら効果的なアクセントを与えているのが、随所に置かれた和の小物たち。入り口には純白の盛り塩、テーブルの上でほんのり揺れているのは、行燈を思わせるアルコールランプの炎。椅子の脚もとには、打ち水をするのでしょうか、清々しい白木の手桶と柄杓(ひしゃく)。
カフェとアトリエを結ぶ廊下は露地庭をイメージしており、その一角には、鴨脚氏の家に伝わってきた江戸時代の精緻な五月人形が二体、凛々しい面持ちで鎮座していました。
私が二度目にICHOを訪れた折には、6名のお客さまがソファで静かな打ち合わせ中。フランス語と日本語が聞こえてくるその会話は、銀座にある海外有名ブランドのフランス人たちと、建築デザイナーの日本人のやりとりでした。ICHOの店舗設計を担当したデザイナーが、銀座のブティック改装にも活躍しているのですって。
街のにぎわいから離れてひっそりした時間に身を浸したいときは、こんな場所で大人の特権を甘受しましょう。もし気になったら、奥のアトリエものぞいてみてください。ジャケットやスーツはもちろん、ニットもオーダーできるのです。しなやかなセーターが10万円前後から。