埼玉で生まれ育った?塚さんが、亡き祖父の住まいを受け継いで望月にカフェを開いたのは二〇〇五年のこと。
「地に根を張った生き方をしながら、祖父が作った物語の上に自分の物語を重ねていきたいと思ったのです」
?塚さんの祖父は住まいの一角で古物商を営み、壊れたカメラや無骨なカーバイトランプや用途不明のがらくたの数々を遺しました。
誰とも知らない人々に使い古されて祖父の手に渡り、祖父亡きあとで?塚さんのもとに巡ってきたそれらは、いわば二重の遺品。
「ものとつきあえるのは、自分が生きているあいだだけなんですよね。人間がこの世を去ったあとも、ものは存在しつづける。そんなものたちがひとつひとつ、それぞれの旅をして物語をまといながらこの場所にたどりつき、いま自分と出会っているのです」