ほどよい距離感への意志
つかず離れずの間合いへの意志は、1階カウンターの高さにも表れています。カウンター席に座ったお客さまが、キッチンに立つスタッフと目線をあわせにくい高さ。両者がしっかり話しこむようには設計されていません。そのくせ、メニューやお店のホームページからは茶目っ気とサービス精神が伝わってくるのですよね。お客さまを一瞬くすりと笑わせる言葉。距離感とあたたかさの不思議なバランス。
お店のそんな意志はお客さまにも伝わり、訪れる人々のほうでも、いかにも常連客のようなふるまいは決してしないのですって。スタッフの親しい友人でさえも、ひとりでカウンターに座ったら、ついスタッフとなれなれしい会話を交わしてお店の空気を壊してしまうからと、必ずふたり以上で来店してくれるのだそう。
目には見えないカフェの空気を、作り手とお客さまの両方が大切な宝物のように扱っているのは、なんと素敵なことでしょう。
「このカフェは、お客さまが自慢なのです」とオーナー。
「お店のことをよく理解してくださるし、帰りがけに何も言わないお客さまがほとんどいないのです。必ず『ありがとう』などのひとことを添えてくださる方が多く、本当にお客さまに恵まれているなと思います」
相手の領域に踏み込まないかわりに、短い、なんでもないけれど心のこもったやりとりを。まさにカフェとお客さまとの理想的な関係ではないでしょうか。
おしぼりを渡すタイミングひとつとっても、「お客さまに手渡ししないこと。席についたばかりのお客さまは、そのとき他にしたいことがあるかもしれないので、おしぼりを手渡しせずに、お客さまのそばに置くようスタッフにお願いしています」
2002年のオープン以来、アヂトがカフェとしてはそろそろ長命の部類に入る5年という月日を生きてこられた秘訣のひとつは、こんなこまやかなまなざしにあるのかもしれません。