多摩川に橋がなかった時代、川岸には船着き場が…
2006年までPEACEが川岸に借りていた古い小屋は、多摩川にまだ橋がなかった時代に、船頭が舟をこいで両岸を往復していた場所に建っていたのだそう。釣り客などが訪れてお酒を飲み、釣り道具を置いておく、ささやかな一杯飲み屋だったといいます。PEACEのオーナーの鎌田耕慈さんはこの居酒屋…と申しましょうか、小屋と申しましょうか、とにかくこの建物のすぐ近くに住んでおり、台風などで多摩川の水位が上がるたびに、小屋の主であるおばあちゃんから要請を受けて、小屋が流されないようお手伝いに行ったりしていたのだとか。
そして、おばあちゃんの「鎌田さん、このお店をやらない?」という熱い気持ちにこたえるとともに、鎌田さんが日頃抱いていた思いを実現する場所として、小屋を改造してPEACEをオープンしたのです。
人とのつながりの手応えを求めて
鎌田さんのご本業はFMラジオの番組制作等の仕事、奥さまは照明デザイナー。おふたりの仕事は不特定多数の人々に投げかける性質のものであることから、作り手がどれほど「いかに楽しんでもらえるか?」と試行錯誤しても、リスナーにちゃんと届いているかどうか、かねがね疑問を感じていたといいます。そこで「自分たちの手の届く身近なところで、なにか表現してみたい」とオープンしたのがPEACE。
「人々が集って、飲んだり食べたりしている空間は臨場感があっておもしろいし、手応えも実感できます。飲食の仕事はダイナミックで、カフェにも社会の縮図が感じられますね。昼間はひとりで飲みにきてくれるおじいさんがいたり、夜はばしっと服装を決めてくるカップルがいたり、休日はのんびり本を読みにくる若い人がいたり」
社会の大きなうねりのなかで一個人ができることには限界があるけれど、もしかしたら、小さな、真剣な願いは届くのかな、と感じていると鎌田さん。 その言葉はきっと「個人」として立っていることを大切にする人々を-もちろん私も含めて- 勇気づけることでしょう。