製菓店として200年の歴史を刻む「COVA東京」。
「ザ・ペニンシュラ東京」の真向かいにある「COVA(コヴァ)東京」入口。 |
一昨年秋にオープンした「ザ・ペニンシュラ東京」の真向かいに位置する、「COVA(コヴァ)東京」。「ペニンシュラ」が香港からやって来たラグジュアリーホテルなら、「COVA」はイタリアの文化を息づかせる、ハイセンスな大人のカフェ。
と言うのも、通常、チョコレートやスイーツを持ち帰れるパティスリーとしての機能を持ち、ランチやディナーをいただくリストランテとしても稼働するカフェは、若い女性で賑わっているイメージが強いもの。でも、ここ「COVA東京」の客層は、もっと幅広い。それこそ、年配の男性同士が、スイーツを愉しむ姿も珍しくはないのです。
それはきっと、ここが持つ、落ち着きある趣きが作用するもの。スイーツひとつ取っても、最先端のアレンジこそなけれども、200年間、製菓店として歩んできた歴史をふっと感じさせる、古き良き懐かしさを含んでいるのです。
発祥は、1817年。ナポレオン軍の兵士であったアントニオ・コヴァ(Antonio Cova)が、ミラノのスカラ座の傍らに、カフェをオープンしたのが始まり。
その後、マリー・アントワネットの生家でもある、オーストリア・ハプスブルク家に対する市民の叛乱で、「ミラノの5日間」の会合場所にもなり、名を残すも、第2次世界大戦の空爆により崩壊。
2年後には再建され、ふたたび栄華を極めますが、イタリア王国の樹立、発展にともない、ミラノのファッションの中心地、モンテナポレオーネ通りへ移転。現在は、デザイナー達が出勤前にエスプレッソを楽しむ、通り唯一のカフェとして、その伝統をつないでいます。
「COVA」の最も古いレシピで作る「ザッハトルテ」。
手前が「サケル」。左奥は「ミモザ」。右奥は「苺とピスタチオのタルト」。 |
そんな「COVA」の歴史を再現するのが、丸の内の「COVA東京」。代表的なお菓子は、イタリア語で「サケル(3,000円)」と呼ばれる「ザッハトルテ」。
こちらは、「COVA」の最も古いレシピで作られる逸品。ウィーンでフランツ・ザッハーが生み出した「ザッハトルテ」が、イタリアにたどり着いた際、「COVA」のチョコレートと出会い、こちらのメインスイーツとしても親しまれるようになりました。
スポンジの間には、イタリアから輸入したジャンドューヤを使ったチョコレートクリームとアプリコットジャムが挟まれ、まわりには、細かく砕いたローストカカオ豆がたっぷり。スポンジのやわらかさとともに、ジャリジャリした食感も楽しめるよう、配慮されています。
ミラノの「COVA」と同じ、オリジナルの「リチャード ジノリ」のカプチーノカップと、「サケル」のワンカット(800円)。 |
「ザッハトルテ」と言うと、アプリコットの酸味はありながらも、濃厚で甘い場合が多いですが、ここのは、どちらかと言うと、見た目よりも軽め。カカオ豆の苦味が効いているため、甘さが程よく緩和されています。
ふっくらつややかにグラサージュされたチョコレートや、中に挟まれたクリームの口溶けも、とてもなめらか。頬張っても、すぐ口の中に余白を作ってくれるので、おしゃべりとの相性も抜群です。
なぜなら、ここのスイーツは、この「サケル」に限らず、100%動物性生クリームを使っているのが特徴だから。通常、型崩れしにくいなどの理由から、生クリーム(牛乳原料)と植物性のクリームを配合することも多いそうですが、植物性のクリームは融点が人の体温より高いため、あまり多く使うともたれる場合もある。でも、人の体温より低い融点の100%動物性生クリームは、食べた時にさっと溶けるため、年配の方にも好まれる。
また、「ミルフィーユ」など、バラバラ崩れるお菓子とも違い、手元も気にならないので、初めて会う恋人のご両親への手土産などにも最適です。
定番の「ミモザ」を抹茶やクマバージョンでアレンジ。
カスタードクリームと苺を挟んだ「ミモザ」のクマバージョン。 |
とは言っても、チョコレートは、案外、好き嫌いが分かれるところ。お店の人に伺っても、ねっとりしてる、甘過ぎるなどの理由から、あえてはずす人も中にはいるそう。
そんな時に、こちらのパティシエが万人向きとしてお奨めするのが、「ミモザ(2,800円)」。これは、スポンジにカスタードクリームと苺(季節により、果物の変更あり)を挟んだ、ごくシンプルなひと品。
ミラノの「COVA」と同じ、オリジナルの「リチャード ジノリ」のエスプレッソと、ドーム型「ミモザ」のワンカット(700円)。 |
ドーム型がミラノの「COVA」でも定番ですが、日本では抹茶バージョンや、クマバージョン(4,500円)もオリジナルで開発。こちらは、試作の段階で、最初、スポンジを細かいクラム状にして貼り付けたところ、しなっとしおれた元気のないクマになり、お世辞にもかわいいとは言えなかったそう。
なので、スポンジを、1センチ角に変更。これにより、本物のぬいぐるみのようなモコモコ感のある、クマが誕生したのだそう。やはり、おもたせは、味もさることながら、フタを開けた瞬間、いかに相手の心がつかめるかも重要なポイント。「わーっ」という感動こそが、ひと口目の美味しさであると言っても過言ではないのです。
こちらは、「サケル」をもとにしたチョコレートのクマバージョン(5,000円)も販売。なので、お店のドアを開けてすぐの所にあるショーケースには、白と茶色のクマが仲良く肩を並べ、ペットショップの子犬さながら、「買ってよ!」と言わんばかりに、つぶらな瞳で見上げています。
ご紹介します!