「その周りのほうなんか、まったく見えなくなっちゃうんじゃないですか?」
確かに。
「文字だけしか見えなくなっちゃうでしょ? 理解しようとすると」
その通りです。
「動体視力を鍛えるというのは、ある意味でそういうことです」
なるほど。
「卓球のボールに3とか5とか書いておいて、どういう数字が書いてあったかを見分けるとか、動体視力ってそういうことなんです。それは周辺視を使うことと正反対。見たものを認識しようということなので。認識しようとしたら身体なんて固まっちゃうんです。動作は遅れるし。そういう回路を鍛えるのは、身体運動にとって明らかにマイナスです。
卓球でもボールのマークが見えるとか言いますけど、あれは結果的に見えた、見えないであって、マークを手がかりに回転を判断しようとしたら、身体がうまく働かないっていう気がしますよ」
福原愛選手のスーパービジョン
卓球に必要な周辺視の範囲はどのくらいなのか。「このエリアが見えればOK」という規定はない。
バスケットやサッカーほどの広さは必要ないが、狭くてはダメだという。
ただ、広く見ることよりも大事なのは、周辺視を使うときの集中力だという。
「広く見ようというと、ボーっと見ればいいんですか、という解釈をする人が多いんです。でもボーっと見るのは全然違いますね。緊張に対する弛緩ですから。周辺視は、その局面にものすごく集中していないと使えないですね」
報道陣に囲まれながら、野澤さん(右)の検査を受ける福原愛選手(2004年6月) |
昨年のナショナルチームの女子選手を検査したときのことだ。
福原愛選手の周りをテレビカメラやら記者やらが10人くらい囲んでいた(僕もそのひとり)。
「ふつうは、そんな状況で目の検査なんかしたら、動揺するし、うまく見えなくなっちゃうんですが、彼女は全然変わらないんです。見ようとしている空間しか見てない。これは卓球にとって大事ですよ。周りで何が起きても関係ないし。
自分なりにぎゅっと集中したときに、むしろ見なきゃいけない空間が見えてくるんですね。一点集中じゃないんです。限られた範囲に集中できる。プレッシャーがかかるときほど力が発揮できるのは、たぶんそういう面もあると思います」
福原愛選手の勝負強さを、違った角度からかいま見たようで面白い。
********連載*********
卓球に役立てたい眼球運動(4)