「眼球運動」は「動体視力」ではない
スポーツに必要な目の動きというと、まっさきに「動体視力」を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。だから、あらかじめ断っておきたいのだけど、これから紹介する「眼球運動」と呼ばれるビジョン・トレーニングは動体視力のトレーニングのことではない。
というより、動体視力とは正反対の方向性をもつ目のトレーニングである。
なぜなら、動体視力が動いているものを「くっきりと見る」トレーニングであるのに対し、眼球運動は「くっきりと見ない」方向のトレーニングだからである。
動体視力が「認識する」ためのトレーニングであるのに対し、眼球運動は「認識しない」ためのトレーニングだからである。
いささか強引な線引きかもしれないし、その筋の専門家からは「正しくない」というお叱りを受けるかもしれない。
しかし、両者のトレーニングは別物であるという認識をもっていただくために、あえてそんなふうに区分けをしてみたい。
なぜに「見ない」「認識しない」トレーニングをするのか
さて、なぜに「見ない」「認識しない」方向のトレーニングをするのか。目というものは、見て、認識するために存在するのではないか。
こういう疑問に対して、納得のいくような説明をするのがむずかしい。
まず、僕の脳ミソが、こういう科学的分野のむずかしい問題に向いていないということがある。
そういうパーソナルな懸案事項もあることはあるのだが、それより大きいのは、スポーツにおける眼球運動の効果がいまのところ科学的に裏づけされていないということにある。
そして、人は、科学的裏づけがあるものを受け入れやすいという性癖をもつ。
それが増幅すると、科学的根拠をもたないものを無視したり排除したりという傾向になびいてゆく。
そんなわけで、一種の「説」の段階にある「眼球運動」に信憑性をもたせて説明するのはむずかしいと思う。
そう思うのだが、僕はこの「説」がとてもおもしろいと思った。
「感覚的にわかる」ような気がした、といえばいいだろうか。
その説には、スポーツの未来にとって大事なものが含まれているようにも感じた。
それに、人間が証明できていないからといって、それが真理じゃないということにはならない。
ニュートンが発見する前から万有引力はあったように。
選手のビジョン・トレーニングを見守る竹内聡さん(昨年6月) |
卓球界に眼球運動を取り入れたコーチ
前置きが長くなったが、まずはこの方を紹介しよう。竹内聡さんである。
新潟県内屈指のスポーツ強豪校として知られる北越高校の先生である。
女子ナショナルチーム前監督の西村卓二氏(東京富士大監督)の中核的スタッフとして、トレーニングコーチを務めていた方でもある。
風貌はバリバリの体育会系だが、確かにそのとおり、体育の先生である。
そのとおりなのだが、いわゆる根性論とか経験論の指導とは一線を画した、極めて理知的な指導で定評のある方である。
この竹内さんが、西村ジャパンに(というよりは日本の卓球界に)、初めて眼球運動を取り入れた方なのである。