私のいう「型」とは、ドライブ型とかカットマンといった、大雑把に区分けされたプレースタイルのことではありません。それは、このラリーになったら絶対に仕留められる、というような「確固たる得点パターン」とでもいうべき型のことです。
全盛期の斎藤さんの持ち味は、台の全面をカバーできるフットワークとフォアドライブでした。対戦相手は斎藤さんのフォアドライブを封じようと策を講じますが、それでもいざ斎藤さんがドライブの体勢になった瞬間、相手は「お手上げ」に近い状態になります。
とにかく、ツボにはまったときのボールは絶対にミスをしない。サービス、レシーブからフォアハンドで仕留めるまでの流れが身体に刻みこまれ、一度どこかでその流れに入ると、数学の方程式のような正確さで得点をたたき出していくのです。
それは一流と呼ばれる選手に共通して備わっているもので、たとえばイチローの「振り子打法」のように、試行錯誤の末に「型」を獲得することで初めて、より次元の高い自由なプレーを可能にします。そして、その「型」こそが、いまの選手に失われて久しいものでもあります。
最近の若い選手は実にムラのないプレーをします。かつて日本の弱点とされたバックも器用にこなします。大げさにいえば、なんでもできます。しかし、ツボにはまったときの凄みに欠けているため、肝心な場面で頼るべきものがないように私には見えるのです。
記者会見で「強かったころの斎藤清を知っているのは自分より上の年代の方ですから、イメージをこわすのは申しわけない」とおっしゃっていましたが、とんでもない。
斎藤さんが初めて全日本を制した年に卓球をはじめた私にとって、そして初めて世界選手権を観戦した83年東京大会で、実力世界一といわれていた蔡振華との激闘を目撃した私にとって、斎藤さんはいまでもあこがれのスター選手なのです。
そして余談ですが、私が大学生だったとき、日産自動車卓球部が主催した「日産カップ」の場で、いきなり「お前、足、何センチだ?」と聞かれたことを思い出しました。
私の足のサイズは斎藤さんよりも0・5センチ大きかったのですが、斎藤さんは「ふーん」といって、ご自分が履いていた「日産シューズ」を指し示し、「これ、3回しか履いてないから、お前にやるよ」といってプレゼントしてくださいました。
なぜ私にくださったのか、いまもってまったくわからないのですが、その3回しか履いていないという新品同様のシューズに足を通したとき、左足にものすごい「履き癖」を感じ、あのフットワークの「源泉」をみる思いがしました。その後、ボロボロになるまで履いたシューズは、物の収集にまったく興味のない私には珍しく、いまでも宝物として持っているほどです。
「みんなから『がんばれ』という声援が多いので、101勝を目指します。1年になんとか2勝、45、46歳には達成したいですね。そうじゃないと自分の身体が動かない」とおっしゃっていましたが、正直にいえば、私は記録はどうでもいいと思っています。それより少しでも長く、「型の凄み」をファンの目に焼きつけてほしいと願っています。
それを楽しみに、天国から舞い降りて来る方がいらっしゃるでしょうから。 草々
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