「とにかく集中しようと思ったんですよ、ボールに。相手のサービスに対して100%いいレシーブをしようと思って、集中力を高めていったんです」
木方が出した無回転のサービスが甘く入ってきた。
「ふつうだったら、フォアにいくパターンなんですよ。ですから、彼はフォア側に動こうとしたんです」
だが、サービスが高い、打てると判断した松下は、とっさにバックのツブ高面でバッククロスに払った。それは、この試合で初めて見せたフリックだった。
けっして鋭いボールではなかったが、木方の逆をつく格好になった。木方は慌てて回り込んだ。しかし、わずかに遅れをとった打球は、ネットにかかり、コートを外れた。「地味なポイントなんですけど」と勝負の分岐点を語る姿は、いかにもベテランらしい。
これで優勝は4回目。もはや大選手の域に達した。だが、松下は昨年と同じようなコメントを口にする。「先輩方のほうが世界でいい成績収めてますし、僕はそれに近づけるようにがんばるだけ。少しでも自分が強くなるように、また明日からがんばるだけです」。
松下浩二、35歳。プロになって10年が経つというのに、その言葉は不思議なほどに瑞々しい。
決勝 松下 4(5、9、-10、10、-3、9)2 木方
木方の強さと脆さ
木方慎之介に、ジャパントップ12で初タイトルを獲得したときの強さが蘇った。11月の選考リーグ戦での不振が嘘のようなプレー内容だった。彼は活路をフットワークに求めた。オールフォアに徹したのだ。その戦術で、偉関晴光(健勝苑)をフルセットで振り切り(写真)、同僚の倉嶋洋介(協和発酵)をストレートでねじ伏せた。
強さと脆さ。表裏一体の性質が、彼の卓球に潜む。それは決勝後のコメントにもよく表れている。
「正直、悔しいです。カット打ちはけっこう得意なほうなんで、なかなか決勝までくるチャンスもないし、そこでカットマンとできるということで、すごい僕自身チャンスだと思ってやってたんですけど、いまは悔しいっていう思いしかないですね」
なかなか決勝までくるチャンスはない? 今回のような「吹っ切った卓球」を貫ければ、24歳の彼には、まだまだチャンスがあるはずだ。