記録は破られるためにあるという。その名言に例外があるとするならば、真っ先に候補となりそうな記録が誕生した。全日本選手権が開幕した18日、女子シングルス1回戦で高校生のカットマンを下した67歳の伊藤和子が、シングルス通算100勝を達成した。1954年に初勝利をあげて以来、およそ半世紀に渡って積み上げてきた金字塔である。
伊藤の記録に最も近いのが、男子シングルス優勝8回の最多記録をもつ斎藤清の89勝。できるだけ「若い」うちに近づきたいところだが、40歳を迎えた今年は出場しておらず、更新できるかどうか微妙だ。
さらに、いまの全日本では、有力選手が4回戦から登場する「スーパーシード」方式を採用しているため、優勝しても1大会につき6勝しか上積みできない。試合方法が変わらないかぎり、これからの選手が伊藤を上回るのは至難の業といえる。
伊藤は、世界選手権に6回出場し、5回の優勝(団体3回、女子ダブルス、混合ダブルス各1回)経験をもち、全日本選手権でも8回の優勝(シングルス2回、女子ダブルス、混合ダブルス各3回)を誇る。「卓球ニッポン」を支えてきた往年の名選手だ。だが、年々、白星を量産するのが難しくなり、卓球を続けるかどうか、思い悩んでいた時期があったという。
そんなある日、卓球ジャーナリストの鈴木一氏から通算の勝ち星を訊ねられた。それまで気にしたこともなかったが、数えてみると70勝ぐらいになっていた。「それなら100勝を目指して……」という具体的な数字を示してもらったことで、目標がはっきりした。消沈しかけた心が、また奮い立った。