会の中では、松下選手の同期で親友の伊藤誠さんのスピーチがあった。
「私がなぜこの場に上がったのかというと、たぶん、あの一戦を話せ、ということだと思います。あまり思い出したくない話なんですが……」
あの一戦とは、全日本選手権史上に残る大逆転劇といわれる93年の男子シングルス準々決勝のことだ。シチズン時計のエースだった伊藤さんは松下選手と対戦。ゲームカウント2-1でリードし、4ゲーム目も20-14とマッチポイントを奪った。
「本来ならば、そこで1点取って、はい、さよなら、バイバイ、といって勝つところなんですけども、そのときになぜか私の脳裏をかすめたんですね。彼はこれで負けたらどうやって生活していくんだろう、と。ほんとにプロとしてやっていけるのかな、と。
私はそこで1本取るのを悩んだあげくに、取らずに負けてあげました。だからいまこうしていれるのも、私のお陰といっても過言ではありません」
伊藤さんのユーモラスな語り口に場内は爆笑だった。
また、高島規郎さん、岸真由選手らもスピーチをした。