3年前の全日本──その年の夏のインターハイで団体とシングルスの2冠王に輝いた四天王寺高校のエースは、強豪選手を次々と退けてベスト4に進出した。しかし、準決勝で対戦した元世界チャンピオンには格の違いを見せつけられ、17-21、12-21、16-21のストレートで敗れた。
「でも、勝てるチャンスはあると感じた」
完敗という周囲の見方に対し、18歳は強気の姿勢を崩さなかった。
それから3年。社会人になった彼女は、より質の高い練習環境を求め、元世界チャンピオンの祖国に練習の拠点を移し、異国のナショナルチームのメンバーたちと練習をともにする。そればかりではない。試合中、自分に言い聞かせるようにつぶやく言葉も、元世界チャンピオンと同じものになった。
「『ナイスボール』とか、単純な言葉ですけど、無意識に出ちゃいますね。ふだん日本語しゃべらないんで、言ったあとに、『げっ、言っちゃった』と思って、焦って日本語に言い直すんです。それ以外でも、独り言とか、なんか考えているときは中国語ですね。
やっぱり中国語のほうが細かいとこまで表現できるんですよ。日本語っていうのは太い部分しか、卓球に関して言えないんですけど、中国語っていうのはさらに細かいから、だから中国人は細かい技術がうまいんですよ。そういうところでやってると、自然にそうなっちゃう」
人間の思考の核となる言語までもが異国語にすりかわった。自身を世界一の国に溶け込ませることによって日本代表の中心選手となった小西杏は、そのようにして小山ちれとのリターンマッチを迎えたのだった。