私たちのすぐ近くの卓球台で練習をしている川越の視線を感じた。高島氏と眼が合った彼女は、左手に握ったラケットを動かして練習メニューを確認する。高島氏が「それでいいよ」というように2、3度うなずくと、彼女は卓球台のほうに向き直った。
練習の邪魔になっていたことに気づき、話を切り上げようとすると、高島氏は「いいんです、いいんです、まったくかまいません」と私の肩を包むように制止した。私に異論があるはずはなかったが、練習を眺めながらの会話としてはいささか重すぎる気がしたため、話題を彼女たちに向けた。
「男子のトレーナーのボールに押されていないのには、びっくりしました」
「横浜のあとから、女子のボールはいっさい打たせていないんです。はじめのころは全然追いつかなかったんですけど、みっちりと筋力トレーニングを積んでますから、いまでは男子のボールをまったく苦にしないでしょ」
1月に横浜でのグランドファイナルが行われてから、4カ月がたつ。ITTFプロツアーでの年間ランキングの上位者に出場権が与えられるグランドファイナルに、当初、武田、川越のペアは出場を許されてはいなかった。ところが、出場が決まっていた日本の坂田倫子、内藤和子のペアが、坂田の引退により取りやめになり、急遽、代役で出場することになったのだ。そこで中国、韓国のペアを撃破する活躍をし、準優勝に輝いたのだった。
一躍、周囲から大阪でのメダル候補にまつりあげられた彼女たちは、グランドファイナルでの活躍がフロックではなかったことを今大会で証明したのだ。
「ひたすら切り替えの練習をしているのはどうしてですか」
「2人ともバックハンドはいいんですが、フォアハンドの打球点が遅れるんです。いかにフォアハンドを前でさばけるか。いろんなパターンを組み合わせながら、それをチェックしているんです」
「どんなアドバイスをしているんですか」
「武田には『足を使うな。腰から上のひねりで打て』と言ってあるんです」
足を使うな? どういうことなのか……。