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『完本 1976年のアントニオ猪木』を語れ(3)(3ページ目)

『1976年のアントニオ猪木』が完本となって発売された。著書・柳澤健さんへのインタビュー最終回は、猪木との“真剣勝負”を終えた柳澤さんが抱く、新たなる戦いの展望を聞いた――。

執筆者:川頭 広卓

柳澤健、その探究心はどこへ向かうのか?

――柳澤さんの女子プロレス本を書籍化して、尚且つ、(該当する)試合映像が収録されたDVDが付属で付いてきたりすると、かなり売れると思いますよね。

「なるほど。女子プロレスなら可能かもね。佐藤大輔さんみたいな人に、全日本女子プロレスのDVDを作ってもらったら、もの凄いものができると思う。

あと私が興味を持っているのは柔道とアマチュア・レスリング。これももの凄く面白いよ。みんなプロレスのことは声高に語るけど、レスリングのことになると、普通のプロレスファンは実は全然知らないでしょ?」

――そうですよね。

「プロレスは、そもそもプロフェッショナル・レスリングであって、何よりもレスリングなのよ。総合じゃない訳。キックとかパンチはあるけど、基本はレスリング。カール・ゴッチはアマチュア・レスリングが大好きで、ある時期までの世界王者は階級別に全部暗記していたほど。来日したゴッチは、日本のアマレスの人達と親交を持った。

要するに、プロレスの神様カール・ゴッチは日本のプロレスラーではなく、笹原正三や渡辺長武等、アマレスの選手をリスペクトしているということです。ゴッチさん自身はロンドン五輪で、ハンガリーやトルコの選手に負けてますから。だとしたら、プロレスファンが、“カール・ゴッチが愛したアマチュア・レスリングって何?”っていう興味を持ってもいいんじゃないのかな」

――そう言われると興味が出ますね。

「たとえば、1964年の東京五輪と1968年のメキシコ五輪で連続優勝したバンタム級の上武洋次郎という人がいる。上武はオクラホマ州立大学に留学していたんだけど、アメリカにおける彼はレジェンド中のレジェンド。60年代のアメリカのベストレスラーに選ばれているんだから。ちなみに50年代がダニー・ホッジで、70年代がダン・ゲーブル」

――ダニー・ホッジがベストレスラーだったのですか?

「日本のプロレスファンの見方としては、ダニー・ホッジはNWAジュニアヘビー級王者で、恐るべきシューターで、ボクサーとしても凄くて、リンゴ握りつぶして・・・と思っているけど、アメリカでは何よりもアマレスの伝説の人なのよ。メルボルン五輪では銀メダルを獲っているし。上武洋次郎はそんな人と並び称される10年間のベストレスラーな訳。だとしたら、上武洋次郎にだって興味が湧くでしょ?」

――大いにあります。

「ビル・ロビンソンは、世界のベストフリースタイルアマチュアレスラーは笹原正三だと言っている。当時の日本のアマチュア・レスリングはそれほど凄かったんです。にもかかわらず、今の人は何も知らないでしょ?

だから、日本のアマレスについては書いておきたい。レスリングの歴史に関する本って、日本に全然ないんですよ。レスリングの本って」

――今、柳澤さんが雑誌『ファイト&ライフ』で連載されていますよね。

「はい。面白いからぜひ読んで下さい(笑)。あと柔道ね。柔道に関しては、講道館の内部にいる人はいっぱい書くんだけど、外側にいる人間が何かを言うことはほとんどない。プロレスと一緒。プロレスも、内部にいる人は、プロレスに関することを山ほど書いているけど、一般読者が読むに値するというものはとても少ない。だから、柔道の外側にいる人間が柔道を書く意義はあるのかなと思う。あとは日本史かな」

――ええっ、日本史ですか?純粋な?

「うん。日本っていうのは、どういう国で、我々は、どういう国に生まれ、今に至っているのかっていうのを書こうと。私はね、三種の神器は三冠統一ベルトのようなものだと思っているの(笑)。

まあ、三種の神器を持っているのは、天皇陛下なんですけど、要するに日本の歴史って、誰がベルト=権力を持っていると、みんなが納得するか、ということなんです。日本の戦争における戦死者は、ヨーロッパに比べて異常に少ない。日本の戦争のほとんどはリアルファイトではなくて、プロレスなんです(笑)。時々、自分が読んでいる本が、日本史のためなのか、柔道のためなのか、アマレスのためなのか、女子プロレスのためなのか、わからなくなる時がある(笑)」

――また、膨大な数のピースを集めるという・・・(苦笑)

「ヤバイよね。でも、『1976年のアントニオ猪木』の取材ではパキスタンまで行ったから。日本史だったら、さすがにそこまではしなくて済むでしょう。海外に行くと、いつも図書館に行って、現地の新聞を見ます。オランダでも韓国でもアメリカでも行ったし、図書館にはそれぞれ特徴があって面白いんですよ。

ラホール(パキスタン)の図書館なんて、薄暗くてちょっと埃っぽくて、インディー・ジョーンズが隣にいてもおかしくないようなところ。こんなところで、資料を漁ってる俺ってカッコいいかも、という気になる。探しているのはプロレスの記事なんだけど(笑)。ズベールの記事を見つけた時は、すごくうれしかったなあ」

――猪木さんの次は、日本が相手とは・・・。

「日本史の本と女子プロレスの本を同時進行している人って、そういないと思うよ(笑)」<終了>

Special Thanks:Kenichi Ito

『完本 1976年のアントニオ猪木』

<文春文庫>
著者:柳澤 健
価格:800円(税込み)
文庫: 493ページ
出版社:文藝春秋 (2009/3/10)
ISBN-10:4167753650
ISBN-13:978-4167753658
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