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『完本 1976年のアントニオ猪木』を語れ(3)(2ページ目)

『1976年のアントニオ猪木』が完本となって発売された。著書・柳澤健さんへのインタビュー最終回は、猪木との“真剣勝負”を終えた柳澤さんが抱く、新たなる戦いの展望を聞いた――。

執筆者:川頭 広卓

「プロレスの時代が終わったからこそ、この本が存在するんです」

―― 一線から退いても好き放題でしたからね。

「本来、プロレスっていうのは、健全経営こそが正義。だから、坂口さん、長州さんの方が絶対的に正しいんですよ。変なのは猪木さんだけ(笑)。

今の若い人は、もうプロレスの面白さがわからなくなってしまっている。今だと皮膚感覚でピンとこない若い人とか多いんじゃないかな

プロレスって何が面白いの?っていう人にとっては、私の本を読んでもらうと、大体どういうものかわかってもらえるはず。プロレスっていうものを経ないで総合を見ている人、総合や柔術を実際にやっている人には、昔、プロレスと格闘技はこんなにへんてこな形でくっついていたんだ、ということがわかる。

『完本 1976年のアントニオ猪木』は、プロレス入門書として、日本の総合格闘技事始めを書いた本として、極めてわかりやすい本だと思いますよ」

――さて、柳澤さんの探究心はどこへ向かうのでしょうか?

「プロレスは面白いものだと思う。でも、この先に凄いプロレスラーが現れて、大ブームを巻き起こせるとは思えない。プロレスっていうのは、世界中どこでも、1970年を境に衰えるんですよね。どうしてかというと、情報がいっぱい行き来するようになっちゃったから。

アメリカを例にすると、シカゴにはシカゴのテレビや新聞があった。LAにはLAのテレビや新聞がある。一つの街で情報が完結していた訳よ。だから、プロレスラーは、こっちの話はなかったことにして次の街に行くことができた。でも、70年を過ぎると、フロリダの放送がNYで見られるようにもなったりして、プロレスラーの情報操作が成り立ちにくくなっていった。

基本的にはプロレスはアメリカのものです。アメリカにはヨーロッパで食い詰めた連中が、インディアンを大量に虐殺して建国したという歴史がある。人は陰惨な歴史を直視したくないものです。だからこそ西部劇ができた。良い白人が新大陸にキリスト教徒の楽園を作ろうと思って穏やかに暮らしていたら、悪いインディアンが襲ってきましたから、仕方なく銃をとって撃退しました。西部劇の基本構造はこんなものでしょ。アメリカ人はベビーフェイスとヒールの物語を強迫的に繰り返さざるを得ない。ハリウッド映画、特にアクション映画はみんなこれ。

プロレスも同じですよね。ベビーフェイスとヒールの構造は、極めてアメリカ的なものです。だからこそアメリカでは、現在でもWWEが存在する」

――他の国ではいかがでしょうか?

「ベトナム戦争が大きかったと思う。世界中の国が、豊かなアメリカを素晴らしい国として見ていたし、ビートルズもエルヴィス・プレスリーに憧れていた。それが、ベトナム戦争を経て、70年代以降、素晴らしい国であるアメリカへの大きな疑念が生まれた。以後、ヨーロッパでもアジアでもプロレスは衰退していくんです。

アメリカの子分である日本でも、プロレスは衰退していくはずなんだけど、日本にはたまたま猪木さんという天才がいた。猪木さんの存在によって、日本のプロレスは、他国から見ればとても歪んだかたちで、我々からすれば、とても面白いかたちで存続することになった。

だから、猪木さんと馬場さんという二人の天才の相克が、日本のプロレスを活性化させて、生き長らえさせたんだけど、すでにその神通力も尽きた。この先凄いスターが現れて、プロレス人気が大復活するなんてことは、もう二度とないと思う」

――では、今後のプロレス界というのは・・・。

「小演劇のように、マニアックなものとして存続していくでしょう。でも、かつての規模になることは永遠にない。プロレスが終ったとは思わないけど、猪木さんが作り上げた巨大なるプロレスの時代は完全に終った。

プロレスの時代が終わったからこそ、この本が存在するんです。もうひとつ、完全に終ったものとして、女子プロレスの時代があるんだけど、女子プロレスについては書いておきたいと思っています。戦う宝塚であったものが、なぜあれほど危ない、命がけのものになってしまったのか。

1990年初頭の女子プロレスはやっぱり凄いものだったし、そのことを知らない人も多いから。そんなことを考えていたら、どういう訳か、最近女子プロレスに関する仕事の依頼がくるようになってすごく不思議。いま、専門誌以外で女子プロレスに関する仕事をしているライターなんて皆無なのに」
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