「だって相手はアントニオ猪木だよ」
――本を出版された時点では、(1976年のアントニオ猪木を題材としての)猪木さんへのインタビューは実現していませんでしたが、その後、Numberにて実現しましたね。柳澤さんにとって、このときの達成度、満足度というのは、どのようなものだったのでしょうか?「聞きたいことは聞きましたけど、もちろん、答に対して100%満足ってことはないですよね。ただ、これは聞くことに意味があったからね。なんていったらいいのかな。アリ戦みたいなもの。闘うことに意義があった。
僕としては、聞きたいことは聞いたし、猪木さんは答えられる範囲で答えてくれた。それ以上は誰が聞いても無理だと思う。猪木さんには答えたくないものには答えない権利がある。だから、インタビューに応じてくれた猪木さんにはすごく感謝しています」
――おっしゃる通りです。
「大事なことは、猪木さんに踏み込んだ質問をすることなんです。プロレスメディアではできないでしょ? 猪木さんにリアルファイトを挑むなんて。
プロレスメディアは猪木さんのファンタジーを守ろうとしている。僕はプロレスメディアではないから守らない。それだけのこと。
猪木さんには、メディアをコントロールする恐ろしい力がある。百戦錬磨の相手に最初から勝ち目なんかない。玉砕するつもりだった」
――ただ、実際、インタビューでは、すごい答えてくれていますよね?
「受け取り方は、人それぞれでしょうけど、自分の感触としては一生懸命答えてくれたと思っていますよ。
あとはね・・・、すごい緊張した。
このインタビューを“柳澤の負け”っていう人もいるだろうし、“よく聞いた”って人もいるでしょう。どっちでもいいんです。聞くべきことは聞いたから。」
――誰のインタビューであっても、その人に聞き辛いことを聞く勇気は必要ですよね。ましてや、相手はアントニオ猪木。そして、業界の根幹。
「仕事上、インタビューは死ぬ程やってきた。ただ、ここまで緊張したことはなかった。こう逃げたら、こう聞くとか、質問の順番とか、編集者とすごいシミュレーションをした。
それは僕の考えている方向から、逃がさないようにしたかった。それでも結局は逃げられた。向こうの方が一枚も二枚も上だから。そんな相手に立ち向かうには何よりも勇気が必要だった。」
――話を伺うだけでも、緊張感が伝わってきます。
「だって相手はアントニオ猪木だよ」
Special Thanks To Kenichi Ito
・『1976年のアントニオ猪木』を紐解く(1)
・『1976年のアントニオ猪木』を紐解く(2)
・『1976年のアントニオ猪木』を紐解く(3)
・『1976年のアントニオ猪木』を紐解く(4)
※文中イメージ写真(Number291号)は、文藝春秋/Number編集部の許可を得て掲載しております
『1976年のアントニオ猪木』書籍データ
定価:1890円(税込)
ページ数:320ページ
判型:四六判上製カバー装
初版発行日:2007年3月15日
ISBNコ-ド:978-4-16-368960-9