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狂犬兄弟の格闘プロデューサー講座(1)

「誰が格闘技を殺すのかPART-3」は、おなじみ狂犬ブラザースの懸談。格闘ビジネスの中枢を担うプロデュース業の裏側を、実際イベント運営に関わった井田の経験を軸に分析。

執筆者:井田 英登


矢作「やー、誰かと思えば、格闘イベントプロデューサー様[※2006年5月から、井田が業績不振に喘いでいた某格闘団体の立て直しコンサルティング業務を手がけたことを指す。結局、格闘技に無理解なオーナー一族との“死闘”となり、三ヶ月足らずで退任。その経過については、井田の個人BLOG「時に放浪、日々朦朧」で、そのベトナム戦争顔負けの膠着戦の模様が詳しく語られている。]じゃないですか(爆笑)なにやら、この夏は“散々な”ご活躍だったようで(笑)」

井田「ええ、ええ、どうとでも言ってくださいませな(苦笑)。どうせ、プロデュース仕損ないのノブタでございますとも。夏前にはとっとと退任しちゃったんですが、それ以来どこ行ってもまずそれを聞かれるんで、いちいち弁解するのも面倒でして。すっかりここ数ヶ月引きこもり状態になっちまいましたよ(笑)」

矢作「そんなナイーブなタチでもないだろ?(笑)」

井田「何をおっしゃる。ナイーブで、デリケートで、センシティブな、ガラスのン十代ざんすよ(笑)」

矢作「なら、そのまま砕けて消えちゃえっての(笑)」

井田「ふん、そうはいくもんか。まだまだ図太く生き残って、皆様の心にグサグサ刺さるガラスの破片となって頑張る所存にござりますよ。そうそう簡単に片付けられてたまるもんですかい(笑)」

矢作「やー、見事に恨みがましいねえ、負け犬くん(笑)。でもさあ、君の手伝った某団体なんて所詮、失敗続きのどうしようもないイベントだったんでしょ? 君一人がどんなに頑張ったって、根腐れしてる組織ってのは立て直しが効くモンじゃないだろうさ。適当に選手ブッキングして、どんな馬鹿な大会になっても、知らん顔で仲介フィーだけもらっておけばいいのにさあ…。変に理想論振り立てて頑張っちゃうから、浮くんだよ。世の中ってのはもっとベタで、理解力の無い有象無象が大多数なんだって事をちゃんと理解しとけよ。ホント、これだから、組織人だった経験の浅い奴は困るんだ。」

井田「いやー、駄目団体であった事は否定しないし、僕が組織を十分に掌握しきってなかった事は認めますけどね。少なくとも、こっちがプランニングしてた事の半分も実現できてたら、そうでもなかったと思うけどなあ…それはともかく、先生、組織人だったことあるんですかい? 」

矢作「無いよ(笑)。生涯フリーランスだもん。後にも先にも棒給というものを押し頂いたことがない」

井田「無いのにさもわかったような事を…(笑)」

矢作「悟達ですよ、悟達(笑)。組織が不合理なもんだなんてことは、経験しなくたってちょっと想像力があればわかる話じゃないか(笑)。第一、俺は、学生の時分から原稿料で小遣い稼いでたからね。君みたいにAD[※2井田の前職はテレビディレクター]から叩き上げるなんて悠長な事もやったことないし、新聞配達だって、牛乳配達だって、マッチ売りの少女だってやった事が無い(笑)。常雇いのアルバイトといえば、家庭教師ぐらいだ。組織なんかに入ったら、ストレスで死ぬって分かってたから、早くからそっちの道にはハンドルを切らないように人生設計してたんでね。先見の明があると言っていただきたい(笑)」

井田「そりゃ優雅なこって。こっちゃ、頭の悪いブルーカラー出身。学歴もない貧乏人の小倅(せがれ)でやスからね。先生みたいな華麗な人生設計なんぞなかったんでございますよぉ…」

矢作「あ、ブルーカラーだってよー。職業差別だ! 悪い奴だなあ(笑)」

井田「職業じゃない、階級差別だ(笑)」

矢作「もっと酷いじゃないか(笑)」

井田「なんにせよ“すまじきものは宮仕え”ですなあ…。金を出す人間を頭にいただいて、他人の手足になって働くことの窮屈さってのを、久々に経験しましたよ」

矢作「まして、あのオーナーの元で、ってか(笑)。まあ、この業界、とんでもない主催者が混じっていらっしゃいますからねえ。どことは言わないが、トーナメントの決勝直後に “実は、今日のはAブロックでした”なんて奇想天外な事を、平気で言い出す、まるで宇宙生物みたいな頭の構造の主催者だって居るんだし(爆笑)」

井田「ええ、ええ、某MARSさんのすばらしいトーナメントの結末の件でございますね(笑)」

矢作「あれ、一回戦の時はもちろん、事前の会見でも記者発表でもおくびにも出さなかったプランだろ。決勝で選手がボロボロになって勝ち抜いて、優勝したーって大喜びした直後に(笑)。びっくりしたって言うより、呆れたな。何が『実は…』だよ(笑)。普通、どんなトーナメントでも、ファイナルの直後に『まだ半分です』なんて戯言言い出したら、必死になって戦った選手はいい面の皮だし、客が聞いたら暴動になるところだぜ」

井田「ホントに選手の気持ちとか、トーナメントに賭けてた思いとかを平気で踏みにじっちゃって。あんな暴挙はありえ無い。マニアックなメンツが集まったって事で、注目してたファンだって少しは居たと思うんですけど、思い切りアレで水掛けちゃったでしょうからね」

矢作「単に主催者から見て煙たいプロモーションの選手が優勝したからじゃないの? 要するに君のところ
[※3優勝者ダニエル・タベラ、準優勝者ブライアン・ラフィークは共に、井田の主催するJusticeマネージメント所属]なんだけど(笑)」

井田「さー、どうなんですかね。不手際で、評判を落とすのは主催者だけでしょ? 幻のタイトルとはいえ、優勝したタベラ自身は強豪の揃った八人トーナメントを制した事実が厳然として残りますから、痛くも痒くもないわけで。だから、トーナメント建増し構想の意図は、正直わかんないスね。謎としか言いようがない」

矢作「まあ、そのベルトだとか、トーナメント覇者だとかいう『肩書き』だけはどうしても渡したくないって、意地だろ。君の事が嫌いってだけで、どんな恥も厭わないという捨て身の攻撃にちがいない(笑)」

井田「標的俺なの? 違うと思うなあ(笑)ただ背景に政治的意図がある“らしい”というのは容易に想像できますけど。いろいろ選手供給とかで絡み始めてる他団体もあるんで、チャンピオンをそっちから出したいとか、そういう思惑が絡んでるんじゃないですか?」

矢作「ああ、露骨に影響力を感じさせる某団体があるねえ(笑)。出してる選手のバリューに対して、あり得ないほど法外なギャラを取るらしいけど(笑)」

井田「絶対、実名を言うなよ(笑)。で、なにより某MARSの悪いところは、不可解な事をしでかした後にファンにもマスコミにも経緯説明というものを一切してくれないってとこにあるんですよね。客商売で、イベントというのは“商品”なんだから、それに関する情報を流すのは当然だし、それをする事で客にチケットを買ってもらうのだという、ごくごく当たり前の感覚がスポッと欠如してるんですよね。単に内情ががたがたしてて、組織に広報機能らしいものが無いせいもあるんだけど。とにかく効果的な記者会見というのを一回もやったことがない。そのくせ広告とかはやたら一生懸命やる。それで、おかしいなあ客が入らないなあとか言ってて。広告出せばイコール動員が伸びる、みたいな短絡的なロジックを信奉してて、肝心のイベントの商品管理はお留守。金をかけるところが間違ってるというか、やる事がいちいち頓珍漢なんですよね」

続く
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