――でも、いろんな意味で回り道をしたね。トータルな意味で、日本のプロレスは君にとってどんな経験だった?
ジョシュ「一言では言い難いんだけど…、残念ながらクォリティが落ちてたね。日本のプロレスは僕の見始めた頃と比べて凋落してしまって、なぜ昔プロレスがポピュラーだったかみんな忘れてしまっていてね。かつての日本のプロレスラーのトレーニングは、カール・ゴッチ流のシュートトレーニングだった。みんな、プロレスラーがホントに強いのを知ってたし、選手もリアルファイトのフィーリングの試合を作り出す事が出来た。当時のファンはそれを信じていたし、ドラマ性を感じる事が出来た。今のプロレスはアピールと大袈裟な動きばかりだ。そういうのはギミックに過ぎないと思うんだよ。ギミックにリアルなモノなんか何も無いからね。ファンもリアルなモノを何一つ感じる事が出来なくなってしまう」
――かつての猪木時代のプロレスというのはドラマチックで、闘う気持ちやセンスが溢れてたと思うんだけど、全部失われてしまったからね。
ジョシュ「そうなんだ。誰かが言ってたけど、昔のプロレスはアマチュアレスリングやその他のアマチュアスポーツから選手がやってきて成功しようとギラギラしてたって。でも今のプロレスラーはリラックスして試合をやってる。あり得ないよね、そういうのって。プロなんだからもっとハードでなきゃいけないのに。僕はツアー中も出来るだけトレーニングをしようと思うんだけど、一緒にトレーニングしようとする選手とは、シュートトレーニングをやろうって言ってたんだ。ホンモノのウェイトトレーニングと、コンディショニングも含めてね。タカシイイヅカとライガー、それにナガタなんかはずっと一緒にトレーニングできたね」
――ゴッチ流のシュートフィーリングを持った数少ない選手だね。
ジョシュ「ライガーなんかは、キャッチレスリングのいい生徒だった。その代わりに僕は彼からプロレスリングを教わった」
――ジョシュがプロレスラーになって、シャノンはどういう風に感じたの?
シャノン「ジョシュがプロレスを始めるまでは全然プロレスは見なかったんだけども、今はメキシカンプロレスラーが好きね(笑)」
ジョシュ「彼女はタイガーマスクとHEATが好きなんだ」
シャノン「あと、ライガーね(笑)」
――みんなオトコマエだからマスクを被ってる(笑)
ジョシュ「(笑)彼女はアクロバティックな試合が好きなんだ。ジャンプとかね。昔、『これはプロレスだよ』と教えないでUインターの試合を見せた事があるんだけど、リアルファイトだと信じちゃってね。大部分はリアル、というかリアル風なんだ、と。実際ハードに蹴ってるんだけど、K.O.しちゃわないようにピンポイントを避けたりね。新日本の頑丈なレスラーをいつも思いっきり蹴飛ばしてやると、緊張して鼻息が荒くなってたりするんだ(笑)」
――僕は昔キミのインタビューに『21世紀のカール・ゴッチ』ってタイトルをつけたんだけど、今やもう誰もゴッチイズムなんか必要として無いのかもしれないね。
ジョシュ「多分、そうだね。でもきっとみんなカール・ゴッチを必要とするときが来るよ。彼はプロレスリングの本当のルーツなんだから。僕自身、プロレスを経験した今、UFCでチャンピオンだった頃よりもっと良い選手になったという自信があるよ。今や僕の技術のベースはフナキやスズキが作り上げた、ホンモノのプロレスなんだからね。僕は自分をカール・ゴッチの孫だと思ってる」
――じゃあ、いつか一緒にカールゴッチに会いに行こう。僕はそんなフィルムを是非作りたいと思ってるんだ、UWFのゴッド・ファーザーであるフロリダのカール・ゴッチの元に、最後のUWFの申し子の君が会いに行くんだ。
ジョシュ「いいね。スゴくいいと思う」
――そこでやっとUWFのミッシングリンクが繋がるわけだ。
ジョシュ「そうさ、UWFが全ての始まりなんだから。僕はユーコーミヤト(宮戸優光)のジムで、ビル・ロビンソンとも練習したんだよ」
――高円寺のUWFスネークピットジャパンだね。
ジョシュ「東京に来ると必ずトレーニングに行くジムの一つさ。パンクラスでの試合の前には、必ずスネークピットで練習するようにしてた」
――なるほどMMAファイトでも、君の背景には常に“Uイズム”ありってことなんだね(笑)。ただ、僕はやっぱり生粋のMMAファイターとして君が闘ってくれる方がうれしいな。アレクサンダーとの試合で、ようやく君本来のMMAスタイルを取り戻したなと感じたよ。
ジョシュ「僕もそう思う。ナカムラ(中村和裕)との戦いは、僕にとっての“ガス灯時代”の戦いだったかもしれない。Blogにも書いたんだけど、大会名もシンセイ(新生)UWFでの“Starting Over”だった。アレクサンダーとの試合は、UWFインターの“Moving On”と言っていいんじゃないかな(※ともに旗揚げ大会の名称)」
――最初に君をUFCで見たときは、毎回すごい勢いで成長してるなと言う感じだったけど、最後の三つの試合は特にMMAの歴史に残るような名勝負だったと思うよ。
ジョシュ「そうかな? あの頃の僕はちょっとタフで、タイトルが欲しくてたまらないだけの若い選手だったと思うよ。今の僕なら、あの頃の僕をやっつけることができると思う(笑)」
――その意味では、スゴく回り道をしたようにも思うけど、結局それで良かったのかもね。君が最初に来た夏を覚えてるかな? あの時はずっと『リアルファイト・ファーストだぜ』なんて言ってたもんだけどね(笑)
ジョシュ「そう、『リアルファイト・ファースト』(笑)。でもそのリアルファイトをやるのが、あんなに難しくなってしまうとは予想もしなかったけどね」
――この二年で、もう僕は君がMMAに対する熱意を失ってしまったんじゃないかと思って、本当に辛かったよ。
ジョシュ「いや、強くなりたいと言う気持ちはずっと失ってなかったし、少しでもいい環境でMMAに戻りたいという目標はずっと持ってたんだ。二年前には、こんな難しい状況になるとは全く予想もしてなかったね。実際、その間はプロレスラーという仕事を十分楽しめていたし、全てを放り出してまでMMAに一直線に戻らなきゃならないとも思ってなかった。それに日本ではUFCのチャンピオンであったと言う事が、あまり評価されなかったのも関係あるだろうね」
【PART6】に続く
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