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誰格2pt.3/虎仮面に隠した桜庭移籍の真情

「誰が格闘技を殺すのか」シリーズ第二弾。GWの格闘技界を揺らした桜庭のHero's移籍。K-1ボブ・サップの出場拒否事件は本当にその報復なのか? 選手の引き抜き合戦の構造に迫る。

執筆者:井田 英登



5月3日代々木第一体育館で開催された「Hero’s」の会場に、突如オレンジの虎のマスクを冠った“正体明白”な男が現れた。

呼び入れたのは、「Hero’s」スーパーバイザーを務める前田日明。
「8月からHero’sに参戦することになった武士(もののふ)中の武士を紹介します」という紹介に続いて、会場に鳴り響いたのはPRIDEの人気選手桜庭和志のテーマ曲「SPEED2のテーマ」。花道を走り込んで来た男の着ているマスクは、往年のプロレスラー・タイガーマスクを模した物だが、額には意匠化された印象的な「KS」のイニシャルが貼付けられている。――格闘技ファンなら知らぬ物のない、オレンジのイミテーションマスク。それは桜庭和志の入場ギミックに他ならない。

だが、男は向けられたマイクに対して、あくまで「タイガーマスクです」と言い張り、「Hero’s」参戦決定かという質問にも「ご想像にお任せします」と答えるのみ。結局、男は最後までマスクを取らないまま、花道を走って退場していった。



だが、翌日K-1の手配で開催された記者会見では、素顔を晒した桜庭和志が、出席。前田SB、谷川貞治FEG社長と並んで、「Hero’s」への参戦を正式に表明する。

この参戦表明に先立つ4月29日づけの東京スポーツ紙では、3月末で桜庭が高田道場から専属契約満了による円満退社したというニュースが報じられていた。だが、この記事の内容では「練習は当面高田道場で続行。近く自分の道場を開きたい。今後もPRIDEマットでの活動を継続する」といった、比較的“現状維持”基調の内容が伝えられていた。

そのたった四日後には、桜庭はライバル団体のリングに姿を現し、移籍の事実を明らかにする事になっている。あまりにもこの急転直下な展開を見るに、どうも、この一連の流れには桜庭を巡る様々な人々の、思惑が交錯している気がした。

まず、情報を整理しよう。
三月末の契約更改時に、高田道場から生え抜きの日本人選手たちが大量離脱する事になりそうだ、というニュースは、実は関係者の間ではかなり早い段階で囁かれていた情報ではあった。

その噂を裏打ちするように、高田道場の公式HPからは早々に桜庭、そして松井大二郎、豊永 稔(レフェリー)、高橋渉、佐藤豪則ら所属選手の名前が消えている。

高田道場ではそれまで選手に毎月月給を払う形で、選手との専属契約を行って来ていたわけだが、桜庭は相次ぐ怪我で出場機会が減り、戦績もイマイチ振るわなかった状態である。全盛期はドル箱状態だったグッズの売れ行きも芳しくはないだろう。そうなると、道場レベルでの収入と、固定費として毎月確実に出て行く月給との採算バランスは悪化して行くことになる。これで別の選手が活躍する状況であればともかく、桜庭に次ぐエース格の選手も出現しない。期待された山本宣久は戦績不振のまま離脱、今村雄介も引退と、高田道場では、ついぞ有望な選手を送り出すことが出来ないままの状況が続いていた。

したがって、高田道場としては日本人選手をリストラし、一気に身軽な経営に体質を改善しようと考えたのかもしれない。一部には、桜庭サイドの金銭的不満が、今回の事態を呼んだと言う声も聞こえたが、その真偽までは確認できなかった。

現に今、高田道場所属として名前を連ねているのは、西島洋介、ユン・ドンシク、パウエル・ナツラ、岩見谷智義と言ったメンバーだが、西島をマネージメントするのは別の事務所であり、ユンとナツラは海外選手。生え抜きと言えるのは岩見谷智義一人。発足当時の、PRIDEに送り込む選手養成所としての役割は、ここで一段落と言う事になるのかもしれない。

とりあえず、今回の離脱の事情に関して、当事者として明確な発言をしているのは、一方の当事者である高田延彦氏が自ら綴っているBlogの記述のみ。

前述の東スポの記事が世に出た二日後――さらに言えば、桜庭の「Hero’s」出現の二日前という極めてデリケートな“端境”の時期の発言というのがきわめて微妙な物を感じさせるが、あくまで桜庭側の「年齢を含めた現状に危機感を感じ」た桜庭の自立の意志を尊重して送り出したという。昨年秋の段階で高田氏の側から、婉曲に独立を促すような提案をしてみたと言う記述もあり、今後についても可能な限りバックアップしたいという発言を見る限り、両者の関係は円満なままの、“放逐”でもなければ“出奔”でもない、穏当な独立劇であったことを強調している。

無論、真相はわからない。ただ離合集散を繰り返して来たUWF系のプロレスラーたちの歴史に、また新たな一章が付け加えられたことだけは間違えない。
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